この世には、特定の者にしか視えないものがいる。
動物でもなければ、人でもない。
俗に、“あやかし”と呼ばれる者たち。
とある昔。
一人の可憐な村娘が、若き妖狐と恋に堕ちた。
それはまるで、風に煽られ一瞬で炎が巻き上がるような、情熱的な恋だった。
けっして皆からは祝福されぬ契りだったが、それでも縁というものは結ばれる。
人とあやかしとの間に固く結ばれた絲は、長い年月を経て、やがて新たな存在を生み出す。
魂を共有し、命を分かち合う、運命共同体。
良くも悪くも、その《進化》はあやかしの一族に様々な影響を及ぼした。
人とあやかし。
異なる種族が一つの架け橋によって繋がれ、双方の命までも結びつける。
対の片方が死せば、もう一方もまた、ともに道連れとなろう。
故に、あやかしたちは時に自らの命をも顧みず、必死に護るのだ。
魂の赤い絲で結ばれた、ただ唯一の “ 伴侶 ” を――。