ここ最近、私は気になっていることがある。それは、親友のようすが少しおかしいことだ。

「うーかーちゃんっ」
「うわっ……びっくりした…!!」

 ほら、今も。
 背中から覗き込むようにすれば、スッと隠されてしまう。

「ねえ、なんで隠すの!?」
「なんでも」
「誰と連絡とってるの? もしかして彼氏?」

 野暮だということは分かっていた。けれど、長い間一緒にいるのだ。
 これまで隠し事なんてしたことなかったし、されたこともなかった。
 羽花ちゃんに初めて彼氏ができたときだって、羽花ちゃんは隠すことなく私に教えてくれたのだ。

 ここまではっきりと分かるような隠し事は初めてなので、なんだかもやもやとした感情が己を支配する。

「違うよ」

 素早く鞄にしまわれた媒体は、いったいどこの誰と繋がっているのだろう。
 めったに笑わない羽花ちゃんが、口の端をちょこっとあげながら会話する相手は、そんなに面白い人なのだろうか。

「じゃあ誰なのー?」
「秘密」
「ちぇー、ケチ」

 唇を尖らせる私をちらりと一瞥した羽花ちゃんは「そんなことより」と話題を転換した。

 なんだかうまくかわされてしまった。悔しい。

「あんた、水谷くんと仲良いの?」

 どきりとした。いつ、どこで、誰に見られたのだろう。
 まあ見られていけないことは何ひとつないのだけれど。

「えー、なんで?」
「この間友達が、あんたと水谷くんが一緒に歩いてるとこみたって。放課後デートしてたらしいじゃん」
「うーん、前半はあってるけど後半は違うかな」

 たしかに放課後一緒に歩いてたことはあるけど、あんなのはデートでもなんでもない。
 ただクレープをご馳走してもらっただけだ。

 デートっていうのはもうちょっとこう、雰囲気とかムードがロマンティックなはずだ。
 人生初のデートがあれはさすがに勘弁してほしい。
 よってあれはただのお出かけ。断じてデートではないのだ。


「男女が二人きりで出かけたらそれはもうデートでしょ」
「ん? それは違うよ羽花ちゃん。ここにきて価値観のズレがあるかも」
「じゃあ付き合ってるわけじゃないんだ」
「まさかまさか! 私みたいなやつが水谷くんみたいな風変わりな美形天才くんと付き合えるわけがないでしょう」
「今の言葉聞く感じ、印象はわりとよさそうだけどね」

 ふーんと微妙な表情で納得したらしい羽花ちゃんは、ふとグラウンドに視線を遣って「あ」と声を上げた。

「なになに?」
「ほら、いるよ。水谷くん」

 ピッと羽花ちゃんが指差した方を辿ると、ちょうどボールを蹴ろうとしている水谷くんがいた。
 ゴール目掛けて蹴られたボールは綺麗な軌道でまっすぐにゴールに飛んでいき、ネットを揺らす。

 遠目から見てもうっとりするほど滑らかなその動きは、たぶん近くで見たらより魅力的に見えるのだろう。

「綺麗な顔してて頭もいいし、運動神経もいいのに気取らないところが刺さる人には刺さるらしいよ。ファンも結構いるっていうし」
「え、そうなの? 確かに美形だとは思ってたけど、ファンがついてるなんて知らなかった」
「できるだけサポートするつもりだけど、さすがに全女子からは庇いきれないからね? 自己防衛は自分でするんだよ」
「? うん、わかった」

 だめだ全然伝わってない、という羽花ちゃんのため息をにこやかに受け止めて、机にかけていた鞄を持つ。

 
「さ、そろそろ帰ろっか羽花ちゃん。今日は部活ないんでしょう?」
「うん。オフだよ」
「最近駅前にできたカフェ、どう?」
「いいね、行こ」
「あ、ついでにお勉強を教えてください」
「ついでなんだ」

 あはっと笑う羽花ちゃんは「いーよ」と呟いて同じように鞄を持った。神様。

「何を教えればいいの」
「数学ですかね……」
「先生がダメかもね」
「違うんです、私の理解力の乏しさなんです……」

 さらっと先生をディスる羽花ちゃんに縋るようにして、カフェへと足を運んだ。