*
事件が起きたのは、推し作家様の新連載が始まって一週間ほど経った日のことだった。
神小説を心の安定剤とし、平穏な日々を送っていた私の目の前にひらりと落ちてきた一枚の紙きれ。
桜の花びらのように空からひらひらと舞い落ち、私の足元に着地するのだから、無意識にも拾ってしまった。
校舎を出て少し歩いたところで拾ったそれは、どうやら校舎の上の階から風に乗ってここまで来たようだ。
普通に考えて天から落ちてくるはずがないので、そう考えるのが妥当だろう。
「なんだろう、これ……」
裏返したのは、本当に興味本位。急に落ちてきた紙の裏面に何かが書いてあるのであれば、誰だって見たくなるだろう。私だけではないはずだ。
「神谷時雨……茜爽……」
どこかでみた文字の配列だ、などと不思議に思う暇などなく。バチッと合ってしまった記憶と記憶は、私の興奮をあっという間に爆発させた。
「ちょ、ちょちょちょちょ、どういうことこれは…!?」
何度もその文字を目でなぞる。目を擦って、瞬きをして、深呼吸をして見てみても、やはりその文字が変わることはなかった。
間違いない。
「これ……小説のキャラじゃん」
しかも、新連載の。
個性的な名前だから、間違うはずがない。探せばこの世界のどこかにいるかもしれないけれど、この書き方からして実名ではなさそうだ。
ヒーローとヒロイン、どっちも合致。しかもキャラクター設定まで事細かに書いてある。
思考回路は一気に停止、それからすぐにフル稼働。
「キャラ設定細か……しかもこんな情報出されてない…よね?」
となると、だ。
私のなかで、二つの仮説が浮上した。
まずひとつ目。
「先生のファンによる二次創作……」
そしてもうひとつ目。
「この学校に、先生がいる……?」
ぶつぶつとつぶやく私は、はたから見たら要注意人物だ。
それでも、こんな漫画のような紙展開ならぬ神展開に遭遇するオタクは、果たしてこの世に何人いるのだろうか。
私自身、気づいていないだけで相当な強運の持ち主なのかもしれない。
「ていうか、もしこれが本物のキャラ設定だったとしたらネタバレじゃん…!むりむり、読めないよこんなの!!」
素早く折り畳んで、鞄の奥深くに滑り込ませる。
これで少しは安心だ。もし適当な場所に捨てようものなら、誰が拾って見るか分からない。
みんながみんな、私のような【節度のある】オタクだとは限らないのだから。
拾ったのが私でよかった、本当に。
「おーい、未理!そんなとこで何してんのー?」
「あ、羽花ちゃん!」
ぶんぶんと手を振って駆け寄ってくる親友は、どこか嬉しそうだ。
「一緒に帰ろ」
「あれ、部活は?」
「今日は顧問が体調不良で、奇跡的に休みになった」
なるほど。だからそんなに嬉しそうな顔を。
「そっか。じゃあ一緒に帰ろう」
拾った紙のことは、なんとなく羽花ちゃんには言わない方がいいような気がして。
鞄の奥で眠ったまま、当分の間出てくることはなかった。
事件が起きたのは、推し作家様の新連載が始まって一週間ほど経った日のことだった。
神小説を心の安定剤とし、平穏な日々を送っていた私の目の前にひらりと落ちてきた一枚の紙きれ。
桜の花びらのように空からひらひらと舞い落ち、私の足元に着地するのだから、無意識にも拾ってしまった。
校舎を出て少し歩いたところで拾ったそれは、どうやら校舎の上の階から風に乗ってここまで来たようだ。
普通に考えて天から落ちてくるはずがないので、そう考えるのが妥当だろう。
「なんだろう、これ……」
裏返したのは、本当に興味本位。急に落ちてきた紙の裏面に何かが書いてあるのであれば、誰だって見たくなるだろう。私だけではないはずだ。
「神谷時雨……茜爽……」
どこかでみた文字の配列だ、などと不思議に思う暇などなく。バチッと合ってしまった記憶と記憶は、私の興奮をあっという間に爆発させた。
「ちょ、ちょちょちょちょ、どういうことこれは…!?」
何度もその文字を目でなぞる。目を擦って、瞬きをして、深呼吸をして見てみても、やはりその文字が変わることはなかった。
間違いない。
「これ……小説のキャラじゃん」
しかも、新連載の。
個性的な名前だから、間違うはずがない。探せばこの世界のどこかにいるかもしれないけれど、この書き方からして実名ではなさそうだ。
ヒーローとヒロイン、どっちも合致。しかもキャラクター設定まで事細かに書いてある。
思考回路は一気に停止、それからすぐにフル稼働。
「キャラ設定細か……しかもこんな情報出されてない…よね?」
となると、だ。
私のなかで、二つの仮説が浮上した。
まずひとつ目。
「先生のファンによる二次創作……」
そしてもうひとつ目。
「この学校に、先生がいる……?」
ぶつぶつとつぶやく私は、はたから見たら要注意人物だ。
それでも、こんな漫画のような紙展開ならぬ神展開に遭遇するオタクは、果たしてこの世に何人いるのだろうか。
私自身、気づいていないだけで相当な強運の持ち主なのかもしれない。
「ていうか、もしこれが本物のキャラ設定だったとしたらネタバレじゃん…!むりむり、読めないよこんなの!!」
素早く折り畳んで、鞄の奥深くに滑り込ませる。
これで少しは安心だ。もし適当な場所に捨てようものなら、誰が拾って見るか分からない。
みんながみんな、私のような【節度のある】オタクだとは限らないのだから。
拾ったのが私でよかった、本当に。
「おーい、未理!そんなとこで何してんのー?」
「あ、羽花ちゃん!」
ぶんぶんと手を振って駆け寄ってくる親友は、どこか嬉しそうだ。
「一緒に帰ろ」
「あれ、部活は?」
「今日は顧問が体調不良で、奇跡的に休みになった」
なるほど。だからそんなに嬉しそうな顔を。
「そっか。じゃあ一緒に帰ろう」
拾った紙のことは、なんとなく羽花ちゃんには言わない方がいいような気がして。
鞄の奥で眠ったまま、当分の間出てくることはなかった。