(7)I’m yours

 俺、ダニエル、アンドレはマリアの働いているレストランで食事をしていた。

 マリアは俺たちのテーブルにやってくると「ねえ、知ってる?」とダニエルに言った。
「なんだい?」
「こっちの兵士は戦場に行くときに、自分の名前の入ったペンダントを大切な人に渡すんだって」
「自分の名前を書いたお守り。どういう効果があるの?」
「大切な人のところへ帰れますように。そういう意味があるらしい」
「効果あるのかな?」
「分からない。でも、神頼みって言うでしょ。何もしないよりはマシよ」
「そうだな。俺も作ってみるか」
「誰に渡すの?」
「もちろん、君にだよ!」

 盗み聞きするわけじゃないけど、僕とアンドレはダニエルとマリアの会話を聞いていた。

 ― 僕もペンダントを渡そうかな?

 ジャンヌのところに帰れるように・・・

 ***

 ― 夢か・・・

 僕は飛行機の中でいつもの夢を見た。
 僕たちはタンソンニャット国際空港に到着すると、Grabでタクシーを呼んだ。
 まず、マリアが働いていたレストランに向かう。
 マリア本人が見つかるかどうかは分からないが、当時の僕たち(マルク、ダニエル、アンドレ)を知っている人がいるかもしれない。

 僕たちは夢の中のレストランの場所に到着した。
 レストランの看板には、見覚えのある2匹のトカゲの絵が描いてあった。

「本当にあった。あのレストラン、あの時のままだ」

 僕たちがレストランの中に入って窓際の席に着くと、店員の一人がメニューを持ってやってきた。
 ドレーク(ダニエル)は夢の中で何度も注文したメニューを言ってみた。
 店員は注文をメモに書いて「他には?」とドレークに聞いた。

「料理はそれでいい。それと、聞きたいことがあるんだ。このレストランで働いていたマリアって女性を知らないかな?」とドレークは店員に尋ねた。
 すると、店員はカウンターに座る高齢女性を指さすと厨房の方へ下がっていった。

 ドレークは「まさかな・・・」と驚いている。
 僕とアランも半信半疑だ。

 ただ、ここまで来て確かめないという選択肢はない。
 僕は「話してきたらどうだ?」とドレークに提案した。
 ドレークは「そうだな、ここまで来たし」と言うと高齢女性に近づいて話しかけた。

 僕とアランは店員が運んできた料理を食べながらドレークと高齢女性を遠くから眺めていた。

 高齢女性は静かにドレークの話を聞いている。ドレークは夢で見た記憶を頼りに、ダニエルとマリアの話をしている。

 ドレークと高齢女性が話初めてからどれくらい経っただろう?
「うぅぅ・・」という嗚咽が聞こえてくると高齢女性がペンダントを握りしめながら崩れ落ちた。
 その高齢女性をドレークが抱きしめている。

 しばらくするとドレークが僕たちのところへ戻ってきた。
 僕は既に答えが出ている質問をドレークにした。

「どうだった?」
「マリアだった。ずっと俺(ダニエル)のことを待っていたらしい」
「60年近くもか?」
「ああ、こんなことならもっと早くここに来ればよかった・・・」
「これからどうするんだ?」
「しばらくこっちにいようと思う。60年近く待たせた罪滅ぼしだな」
「そうか」

 僕は僕たちの置かれた状況を理解した。
 マリアが持っていたのはダニエルが渡したペンダントだ。
 そうだとすると、ジャンヌも僕のことを待っているかもしれない。

 でも、僕は一つの問題にぶち当たった。

 ― 僕はジャンヌがどこにいるか分からない・・・

 それに、今の僕はマルクじゃない。トニーだ。
 僕が軍に問い合わせても、ジャンヌの情報を開示してくれないだろう。

 僕は藁にも縋る思いでドレークに聞いた。

「マリアはジャンヌの居場所を知らないかな?」

 ドレークは趣旨を理解したようで、マリアにジャンヌの居場所を聞いてくれた。
 ドレークが『僕がマルクであること』を伝えると、マリアは店の奥から手紙を持ってきた。

「ジャンヌはお前を探しにこの店に何度か来たらしい。その後もマリアはジャンヌと手紙でやり取りしていた。ジャンヌはこの住所にいるみたいだ」
 ドレークはそう言うと僕に手紙を渡した。

 僕は手紙を受け取ると「ありがとう」とマリアに礼をした。

 僕はアランに「君はどうする?」と聞いた。
「アンドレの家に行ってみるよ。君もジャンヌを探してみればいい」
「そうだな。でも、僕のこと覚えてるかな?」
「そんなこと言うなよ。私なんて会ったこともない子供が自分と同じくらいの年齢なんだぞ・・・」

 僕とアランが不安な顔をしているとドレークが「大丈夫だよ」と励ましてくれた。

 ***

 マリアから教えてもらった住所を頼りに、僕はシェムリアップ国際空港に到着した。
 僕はGrabでトゥクトゥクを呼んで手紙の住所へ向かった。

 道路は舗装されているのだが砂埃が舞っている。
 トゥクトゥクが埃っぽい道を進んでいくと、大きなコンドミニアムに到着した。
 この辺りは比較的治安もよく、物価も安いから退役軍人に人気があるらしい。

 僕はジャンヌの部屋を見つけた。表札にはこう書いてある。

 “Jeanne Virtue”

 ― 本当はVirtuなんだけどな・・・

 そう思いながら僕は呼び鈴を押した。
 僕にはジャンヌが部屋にいるか分からない。

 少し前に流行った歌を口ずさんで、僕は彼女を待った。
 しばらくすると背の高い高齢の女性が出てきた。

「あら、その歌」
「ああ、僕のファミリーネームが出てくるから好きなんだ」

「あなたもヴァーチュー(Virtue)なの?」
「いや、僕のはヴェルチュ(Virtù)なんだ。ペンダントをオーダーしたら職人が英語と間違えてeを足したんだ」
「へー。大昔に似たような話を聞いたことがあるわ」
「大昔ね・・・。ちなみに、僕のペンダントはまだ持ってる?」

 ジャンヌは少し考えてから意地悪く言った。

「持っているわ。犬の首輪に付いているけどね」
「ひどいなー。約束を守って会いに来たのに」

 僕はそう言うとジャンヌを抱きしめた

<おわり>