「ねぇーしおんちゃーん?クラス替え嫌なんですけど〜どうにかしてくれなーい?」
高校1年生最後の登校日。私はもうすぐ高校2年生となる。あれから3年。少しは変われたはず。
「大丈夫だって!クラス変わっても絶対話すし!」
友達だってできたから。私は優しい自分を見せなくちゃならない。
「そーだけどおー。やっぱ詩恩とクラス違うと寂しいんだもん。」
こんな言葉をかけてくれる友達がいるから、私も応えなくちゃならない。
「それは本当にそう!私も四葉と違うクラスが嫌〜」
「だよね〜やっぱ詩恩大好き!!」
ほら。大好きって言ってくれる。その大好きの一言が私の存在意義になってくれる。
「やった〜ありがとね〜」
「詩恩ってさ〜?めっちゃ可愛いし、優しいし、運動できるし、頭良いし、完璧だよね」
ピクリと可愛いの言葉に反応してしまう。これは世間では褒め言葉らしい。でも、私にとっては呪いの言葉。
「えー?完璧なわけないじゃん!できないこともいっぱいあるし!なんなら四葉のが完璧じゃん?でもありがとう!」
私が生きてきた中で一番相手が不快にならない返し方。
「てかさ、同じクラスになりたい人とかいる?」
「うーん、四葉だけでいいかな〜。仲良い子もあんまりいないし。欲を言うならりさちゃんとか結衣ちゃんも一緒だと嬉しい。」
私には友達が少ない。友達が多くてもいい事はない。あの日、身をもってそう感じたから少なくていい。少ない方がいい。
「四葉は?」
聞き返してみる。
「私も詩恩がいい!!後はね〜一ノ瀬くんと同クラなってみたいかも。」
一ノ瀬くん。初めて聞く名前。不思議に思いながら聞いてみる。
「一ノ瀬くん?誰それ。」
そうすると四葉の目が少し開き、驚いたような表情に変わった。
「え!?嘘でしょ!?詩恩、一ノ瀬くん知らないの!?」
知らなかった。交友関係が少ないとこうゆう時不便なのか。
「え、知らない。はじめて聞いたし。何?有名人なの?」
「いやいや!有名人だよ!?めっちゃイケメンでサッカー部のエースだよ!1年生でレギュラー入りしてたし。あとはねぇ。優しいんだってさー。ちょーモテモテよ。」
初めて聞いた。そんな人がうちの学校にいたのか。
「へ〜。知らなかった…でもなんでその人と同クラになりたいの?」
「イケメンの同クラなんて夢でしょ!あわよくば付き合いたい。」
この年頃の女の子はみんな彼氏、リア充、カップルと何かと恋愛の話が多い。恋なんてしたこともしようとも思ったことない私には無縁の話だ。
「そんなイケメンならもう彼女いるでしょ。」
「それがね!?いないらしいのよ!しかも元カノ0だって〜!やばくない!?狙い目だよ!」
ずいぶんと興奮した四葉が目を輝かせて楽しそうに話す。
「どこ情報よ…」
根拠の無い噂ほど迷惑な話はない。果たしてこれは本当の情報なのか。まぁ確かめようとは思わないけれど。
「マジだって〜信じてよお。」
「しゃーなし!四葉を信じてやろう!」
「上から目線だるー」
ふふふ。と2人で笑う。
始業式が終わった。今日から私は高校2年生になる。始業式中に先生が掲示板に貼ってくれたクラス替えの名簿を四葉と見に行った。
「えーとえーと、双海四葉…双海四葉。うわ全然見つからない。そっちは?見つかった?」
「ぜんっぜん」
なんせ8クラスもある。おまけに人も沢山。名前を探すのが容易なはずがない。
「あ!あったよ!詩恩!私、2組だ!」
四葉は2組か。なら絶対に自分も2組がいい。四葉と違うクラスになったら友達作りに苦労しそうだ。
「2組…2組…佐々木詩恩…佐々木…さ…あ!あった!!良かった!同クラだ!」
安心した。でもこれで3年の時に四葉と同じクラスになれる確率はぐんと減った。大丈夫だろうか。
「え!やば!一ノ瀬くんも同じなんですけどー!さすがに奇跡!神様ありがとう!!」
あの、有名人さんも一緒なのか。さほど興味もないけど共感しておく。
「ほんとだ!良かったじゃん!あ、でもりさちゃんと結衣ちゃんとは別になったね…」
「あ…でも休み時間とかも話せるし!大丈夫だよ!ほら!新しいクラス行こ?」
「だね。」
クラスに着くと黒板に座席表が書いてあった。出席番号が書かれており、私は9番で廊下側の後ろから2番目の席となった。隣は2番さん。一方、四葉とは結構離れてしまった。残念に思いつつ、支度を済ませた。するとガラリと扉が開き新たなクラスメイトが入ってきた。その瞬間女子が一斉にザワザワと話し始め、男子はそのクラスメイトに駆け寄った。一ノ瀬くんが入ってきたのだ。彼は男友達と笑い合いながらチラリと黒板を見た。そしてぐんぐんと私に近づいてくる。嘘。まさか。なんと彼は私の隣の席だったのだ。ストンと華麗に隣に腰を下ろした彼は長く、綺麗な手でカバンの漁った。相変わらず周りには多くの男友達が群がっており、とても邪魔だ。もちろん言うわけないけど。それより気がかりなことが私にはあった。さっき四葉は一ノ瀬くんと関わりたそうにしていた。だから隣になったことでに嫌われていないといいけど。怖がりながら四葉の方を見ると今にわー!きゃー!と叫びそうな顔をしてこちらをみていた。嫌われはしなかったようだ。安心していると私の目線に気がついた四葉が一瞬で私の席にやってきた。
「ちょっとちょっと!詩恩ずるすぎだよ!一ノ瀬くんの隣とか全女子の憧れだよ!?」
「えー、私あんまり一ノ瀬くんのこと知らないし憧れとかでもないんだけど…」
ここで共感してしまうと逆にダメということを知っているのでここは反論。するとチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。途端にクラスメイト達は自席に戻り荷物の片付けに取り掛かった。
「えーと、よろしくね?」
急に隣から声をかけられたので肩がビクッと震えてしまった。
「あ、えと、うん。こっちこそよろしく…です。」
平気なフリをして無難に返す。
「俺、一ノ瀬楓って言います!君は…?」
さすが有名人さん。コミュ力から別次元だ。
「佐々木詩恩です。一ノ瀬楓くんのお噂はかねがね…」
一応、初対面なのでフルネームでくん付けにしておいた。するとプハッと一ノ瀬くんが笑った。爽やかで綺麗な笑顔だった。
「お噂って堅苦しすぎだろ!しかもフルネームじゃなくていいよ!」
私は男の子を下の名前で呼んだことがなかったため、無難に苗字に君付けにした。
「うん。わか…りました。一ノ瀬…くん?」
「まだ君付けに敬語かぁ。まぁいっか!じゃあ俺は佐々木って呼ぶわ!」
そうして会話は幕を閉じた。それからは順番に自己紹介をし、教科書を配ったら下校となった。