うちの職場はいわゆるオフィス街にあって、すぐ近くには飲食店がたくさんひしめき合っている。
忙しく仕事に追われる中、毎日昼飯をどこで食べようか、それくらいしか楽しみがない。

とは言うものの、よく利用する店は限られてくるわけで。

行列に並ぶのも時間の無駄だよな、なんて思って今日もチェーン店の牛丼をテイクアウトして一人モソモソと自席で食べていた。

「先輩、また牛丼ですか?」

声をかけてきたのは俺と同じ部署で働く小金井ルナ。新人にも関わらず物怖じせずコミュ力が高い。ちなみに俺はこいつの教育係。

「別にいいだろ。楽だし」

素っ気なく返せば、小金井はこの世の終わりかのように顔を青ざめさせて驚愕の目で俺を見る。

「先輩、それはよくないです。だってお昼ご飯ですよ。ランチですよ。会社のまわりにどれだけお店があると思ってるんですか。全部行ってみたいと思いません?」

「……思わないけど」

「それでも編集者の端くれですかぁ!」

小金井は青ざめた顔から今度は瞬間湯沸かし器のように顔を真っ赤にして机をダンッと叩いた。

「編集者っつっても、別に飲食店の情報誌作ってるわけじゃないし、昼飯だってまともに食べられるかわかんねぇし、食べられるだけいいじゃん?」

「はあ?」

小金井はさらに顔を歪めた。

こいつ、先輩に向かってどんな口の利き方してんだよ。てか、「編集者の端くれ」とか暴言だろ。
なおももの言いたげな小金井を軽くあしらって、俺は残りの牛丼を掻き込んだ。
別に美味くも不味くもない、いつも通りの牛丼だ。

「ありえないです。先輩、栄養偏りますよ」

「お前は俺のオカンかよ」

「そうですよ、先輩のお母様から先輩をよろしく頼むって言われています」

「はあ?」

小金井の意味不明な言葉に、今度は俺が顔を歪める。
今日一声が出た気がした。