悩める少年がもう1人。

木原家の可愛らしいペンギングッズに囲まれた怜の部屋。
怜も幸人のようにゴロゴロとベッドに寝転がりながらマイクラボア素材で大福型の大きめのペンギンクッションをぎゅっと抱きしめ思い悩んでいた。
澪は怜の机の椅子に座ってスマホゲームに勤しんでいたが悩みこむ怜が気にかかりスマホを机に置いてベッドの方に椅子を向けた。

「まずい…幸人と最近全く遊んでねぇ…」
「え?なんで?」
「"なんで?"じゃねぇ!!おめーが原因だからだろーが!」
「だってしょーがないでしょ?!魔獣退治は命がかかった大事なお仕事なんだから!」
「そりゃあ…分かってるけどさぁ…」

怜の脳裏に誘いを断ってしまった時の幸人の寂しげな顔が思い浮かんでしまい胸が締め付けられてしまった。
幾ら、街の安全と人々の命を守る為とはいえ自分達の生活と交流を疎かにしてしまっているのは怜の悩みの種の一つになっていた。

(幸人にはまだ言えない。言ったらきっと…)

言ったらきっと首を突っ込んでくるか、怜達を拒絶して疎遠もしくは絶縁となってしまうかのどちらかであろう。
特に前者の場合は幸人の性格故の危惧。怜にとっては親友を傷つけてしまうという最悪の事態だけはどうしても避けたかった。

(前者の可能性の方が高いけど…魔獣と戦った後の俺を見たらどうなるか…)

はぁーっと悩みが溜まった息を吐き、クッションを抱きしめる腕の力を込める。

(バレたら…俺から全てを話すかアイツから離れるしかないのかな…)
「幸人くんなら大丈夫だと思うけどなぁ〜」
「……アイツだから大丈夫じゃないんだよ。変に首突っ込んで怪我させちまうなんてヤダよ俺…」
「でも、あの人なら私達の力になってくれると思うの。怜が剣士である事も、私の武器人の力の秘密もちゃんと内緒のままにしてくれる気がする」
「簡単に言うなって。巻き込みたくないんだ。もし母さんみたいになったら…」

母親の露華が眠り続ける理由に魔獣が関わっていると澪から聞いた時から自分の周りの人間を巻き込みたくないという気持ちが強くなった。だから怜には澪の言葉にどうしても納得がいかなかった。
少しだけ弱気な怜を澪は見捨てず希望を探り当てようとする。
必ず解決策がある。絶対に誰も傷つけさせないと力強い光を込めて目で怜を見つめた。

「絶対にそうはさせない。私と怜ならできるよ。怜のお母様だって絶対助ける。約束したでしょ?」
「いや、そうだけども…」
「それにいつまでも私達の秘密が誰かにバレないままなわけないし。誰か信頼できる人に話した方がいいかなって」
(父さんにバレるよりはいいとは思うけど…)
「大丈夫。きっと良い方向に行くから」
「……どこからその自信がくるのかよく分からんけど説得力がすんげーあったのは認める。けど、もう少し考えさせてくれないか?幸人には話す事」
「え?どうして?」
「心の準備。いろいろ考えてから話したい」

自らの口で話すか、実際に魔獣退治を見せて真実を知ってもらうか。どちらにしろ、魔獣退治に関わってくるようになるか、それとも気味悪がって怜の元から去るの2択が迫られるだろう。
どちらの結末を迎えたとしても剣士となった以上、怜は受け入れなければならない。同じ死線を歩む運命と拒絶される運命のどちらかを。

(どっちも怖すぎてすぐには決められない。だからっていつまでもうじうじなんてしてられない…)

けれど、その運命を歩むのは例だけではない。武器人である澪も同じ事。
怜と出会う前からその運命を決められていた彼女の言葉に嘘偽りが全くなかった。だから幸人のことも大丈夫と言い切れるのだろう。
あの夜の日の自分に差し伸べられた澪の手が脳裏によぎる。

(またコイツに助けられたのか俺は)
「怜?どうしたの?」
「なんでもねーよ。幸人のことは俺が決めるから心配するなってこと。そんな時間かかんねぇ」







悩める2人の少年が秘密を知るまで後少し。