何となく親友との絆の危機を感じた幸人は今度こそ放課後を共に過ごしたいと思い、早起きし、クラスメイトの誰よりも学校に来て、自分の机に座り、じっと怜に話しかけるイメージトレーニングをしていた。
実は此処の所、怜と一緒に登校もできていないのも気がかりだった。
登校途中に木原家に寄って行くもルイスか莉奈に"昨日遅くまで勉強してたみたいでまだ寝てるから先に行ってて"と謝られてしまっている。

(一体、怜と澪ちゃんの間でどんな忙しいことが起きてるや…!!それも気になるし、誘いを断られ続けられてるのも気になるしぃ…!!)

悶々としている内に続々とクラスメイトがやってくる。じっと考え事をしている幸人の何とも言えない雰囲気に学級委員長の楓も、怜と共通の敵である雅紀でさえも話しかけられなかった。
そうこうしている内に朝礼の時間が近づく。なかなか怜と澪は教室に姿を現さない。

(んえ…?もしかして休み…?)

折角早起きしてイメージトレーニングしたのに全て水の泡になってしまうという不安が過ぎる。全身に冷える感覚が走る。
すると、ガラっと勢いよく教室の引き戸がクラスメイト達が話す声と共に耳に入ってきた。
暗くなっていた幸人の表情が一気にパァッと明るくなった顔を出入り口の方に向けた。

「せ、セーフ…!!」
「ギリギリセーフね。あ!おはようございまーす♪」
(あ!おはようございまーす♪じゃねーだろうがよ…!!誰のせいでこうなったと思ってんだ)

走ってきたのか怜は肩で息をしながら教室に入ってきた。一緒に登校してきた澪は余裕な様子でクラスメイト達にいつものように明るく挨拶をした。怜はそんな彼女に軽く苛立った。
自分の席につこうとする澪に雅紀は嬉しそうに彼女に近づいた。
怜と登校できたことでテンションが上がっていた澪だが彼の出迎えと言葉一気に駄々下がった。

「おはようございます!島崎さん!!木原と一緒だったんですか?可哀想に…」
「あ、うん。おはよう。平良くん(あぁ?何が可哀想だと?この野郎…)」

澪に良い所を見せようと努力はするが空回りしているが雅紀が気がつくことはない。その行動が更に澪を苛立たせる原因でもあるのだが、自分勝手な彼に伝わることはないだろう。
隣で澪と雅紀の会話を聞いていた怜は、澪が内心ブチギレているとすぐに察した。

(空回り男の相手も大変やな)

自分の席につき、急いで持ってきた教材を机の中に入れ、リュックを机のフックにかけた。
幸人は壁掛け時計をチラッと見て"まだ少し時間はある"と怜の元に急いで駆けつける。気配を感じた怜はそちらの方に顔を向けた。

「おはよう。幸人」
「お、おはよう…。あのさ今日さ…じゃなくて……」

変に緊張してたどたどしい話し方で挨拶をしてしまった幸人だが、一旦間を置いて、意を決してイメージトレーニングした通り今の自分の思いを怜にぶつける事にした。どうにでもなれという勢いだった。

「(ええい!!儘よ!!)今日こそ俺に付き合ってもらうぞ!怜!!ぶっちゃけ、ここ最近ずっっっっと断られ続けて辛い!!そろそろ遊ぼ!!!頼む…!!」

ほぼ早口で本音を言い切った幸人はどこか満足感とすっきり感を漂わせた。
そんな彼を見て怜は頭を抱えた。幸人が言いたい事は分かっていた。それは自分も同じ気持ちだからだ。

(うぐ…。そうきたか…)

幸人のその願いを余すがにでも叶えてあげたい。けれど。

(でも…ずっと魔獣退治日和だったしそろそろ…)
「あー!!ごめんね!!幸人くん!!」
「ふぇ?」
(げっ)

さっきまで雅紀と話していた筈の澪が怜に抱きつく形で駆け寄ってきた。急いで雅紀の方を見ると彼が項垂れて自分の席に戻ろうとしていた。澪に何か言われてショックだったんだなとすぐに感じ取れた。

「今日も私達先約があるの!!本当ーにごめんね!!今度埋め合わせするから!!」
「おい!!勝手に…」

怜は澪を制止しようとするが先約の意味を思い出しそれ以上の台詞を放つを止まった。大事な家族や友人達を守る為の先約。自分の欲求の為に投げ出すなんて許されない。
深くため息をつき申し訳なさと共に迷いを捨てた。

「……その、澪の言う通りで…今日も一緒に遊べない。ごめんな」
「え…」
「最近いろいろあるもんだから…えっと…」

怜は罪悪感でいっぱいで悲しそうな雰囲気を醸し出す幸人に対して言葉を選んでいた。
こうやって幸人の誘いを断ったのは何度目だろう、剣士として生活するようになってから彼を裏切る日々が続いて怜は謝りたくても謝りきれないと悔やみ続けるようになった。
2人の間に重い空気が流れる中、教室に予鈴が響き渡った。予鈴がスイッチになった様に無理矢理明るく振る舞う幸人に怜は胸が痛む。

「あ……あ、うん!OK!!大丈夫!!マジで埋め合わせ頼むぜ!!じゃ!席戻るわ」
「本当ごめん」
「気にしない気にしない。誰だってそういう時期はあるって!!」

幸人は内心泣きながら席に戻った。けれど、諦めという言葉は最初からなかった。寧ろ、諦めというよりも疑問が生まれていた。

(怜が1人って事はないよなぁ…。いつも澪ちゃんと一緒……本当に付き合ってたりして…?もしくは、2人に大きな使命が…いやいや漫画と映画の見過ぎ見過ぎ…)

変にカンが冴えたが幸人は気が付かない。
その考えが現実になるのは時間の問題だった。