「じゃあ、葵。そろそろ行こっか」
「……うん」
やっと、この日がやってきてた。
私たちの"旅"の最終日。
つまり、私たちはこれから2人で人生の幕を閉ざしに行く。
なぜ、今日なのかというとお金が尽きそうなのもあるけど、警察が私たちの捜索に動き始めてからだ。
……どうせ、お母さんが世間体的に形だけ出したものだろう。
お母さんにはもう、私に対する愛情なんてないはずだから。
ホテルをチェックアウトをして、電車に揺られる。
私たちの最期は海岸にすることにした。
山っていう意見もあったけど、真理佳の意見で最期は景色のいい海がいいということで決まった。
今日は2人でおそろいの白のワンピース。
以前、2人で買い物してた時に真理佳が
「これかわいい!絶対葵にも似合うよお揃いにしよ!」
って猛烈に推してきた時に真理佳が興奮気味に語る姿が可愛くてつい買ってしまった物だ。
駅から歩いて数十分。
その間が、長いようで短いようで。
私たちの最期ともなろう会話はいつも通りのたわいもなく。くだらない。意味の無い会話だった。
ありもしない、これからの将来を話してみたりもした。
転生したら何になりたいとか。
子供の頃は何になりたかったとか。
来年の夏にするらしい映画とか。
そんな、普段ならなんてことの無い会話も、こんな時なら、何か意味を持ちそうで、とても楽しかった。
その後、私たちは人気のない道路から外れたところの草木をかき分けた先にある海岸にたどり着いた。
時間は夕方。
……ちょうど、初日に一香さんに別れを告げたくらいの時間。
しばらくは崖に腰掛けて真理佳と2人で手をつなぎながら話していた。
足元には浮遊感があり、いつもなら誰かに危ないと言われ、止められるところに堂々と座って足をプラプラと揺らすのはなんとも言えない特別感があった。
一寸先は死。
私たちはそれを全身で感じ取っていた。
夕日が沈み、月が上り始める。
今日は満月で黒く見える海に反射した月には思わず2人とも、どちらからと言わず
「……きれい」
とつぶやき目を合わせくすくすと笑いあった。
「ねぇ、葵。最後に思い出話をしない?」
「……いいね。今までどんなことがあったかな」
そこからは多分今でも一言一句違わずその話を覚えてる。
「私たちが初めて会ったのがさ……」
「保育園でも私たちずっと一緒だったよね……」
「葵はずっと成績良くてさ。頭も良かったし……」
「受験。頑張ったよね。一緒ところ行けるように……」
「真理佳、途中涙目で勉強してたもんね……」
「それなら、葵だってあの時……」
誰もいない。静かな世界。
海の波打つ音だけが聞こえるこの世界に。
私たちの笑い声が響いているのが、なんだか心地よかった。
「ねぇ、真理佳最後に聞きたいの」
「……なぁに?」
「なんで、この"旅"をしようと思ったの?」
真理佳は1度、静かに自分の足元に目を向けた。
「……わかってるの。私。真理佳がこの"旅"をしようとしてくれたのは私のためだってこと。それだけじゃない。高校の時も。
あれ、私がクラスの子に真理佳との関係がバレて虐められていたのを察してくれてたんでしょ。私が辛い思いをこれ以上しないように」
真理佳は私の手を離し、私の方に体を向ける。
「……葵はあたしの事を怒る?」
そんな、涙目になっている真理佳を抱きしめる。力強く。優しく。包み込むように。
「うんん……。そんなわけないじゃない。ありがとう真理佳」
「……そう。良かった」
真理佳も私のことを強く抱き締め、私の肩を涙で濡らした。
「……真理佳は良かったの?」
「……なにが?」
「私の。こんなことばっかに巻き込んで」
学校の件も今回の旅のことも。
「私は葵のいない世界なんて信じられない。私は常に葵と居たい。だから、いいの。一緒に居させて……」
「……そっか、ありがと」
もう一度、真理佳を抱き締める。
「……そろそろかな」
「……うん」
2人とも立ち上がり、手を繋いで崖に立つ。
「……最期にしたいこと……ある?」
「……大丈夫。葵とこれから。ずっといられるなら」
真理佳の手を握る力が少し強まったのを感じて私も握り返す。
……正直に言うと、今がとても怖い。
今にも膝から崩れ落ちそうなくらい。
きっと真理佳もだろう。
繋いでる手から震えを感じる。
だけど、目はしっかりと先に向いている。
もう私たちは止まれない。
「真理佳。愛してる」
「私も。大好き」
顔を見合わせて2人で微笑んでから、
崖へ1歩。踏み出そうとした時。
後ろからの草木をかき分ける音に2人して振り返った。
「葵!!」
緊張が走った私たちの目の前に現れたのは……
「お母さんに一香さん……どうしてここに……?」