「私は昔。高校生の時にね、告白されたことがあるんだ。それも、同性の女の子からね。今と違って同性愛の知識も広く知られてなかったし珍しかったものでね。当時の私は困惑したの。同性の女の子から告白されたことについても。その告白してきた相手がずっと一緒に過ごしてきた"親友で幼なじみの子"であったこともね」
親友で……幼なじみ……。
真理佳が鈴さんからは見えない、テーブルの下で私の左手をぎゅっと握る。
「……彼女はきっと、勇気を振り絞って、当時の偏見の中、私に告白してきてくれた。そうと言うのに私の方はやっぱり同性愛なんてものは身近になかった故に言ってしまったの。『なにそれ...』ってね。」
「別に告白されて嫌な気持ちになった訳でもなかったの。彼女のことを嫌いになったわけでもないし、変わらず『親友』として、私は彼女のことが大好きだった。だけどね、その日、泣いて私の横を走り抜けて行った彼女はそれ以降学校には来なかった。私もこれにはきっと私のせいだ。って責任を感じて朝と放課後には必ず彼女の家に向かってた。休日も、雨の降ってる日であってもね。でも、次に彼女の顔を見れたのは彼女の葬式の日だった」
ここで、私たちは息を飲んだ。
「彼女は自ら命を絶っていたんだよ。私に何も言わず。ね」
その告白の返事は告白した側からして、どれだけ傷つくかも、自分のせいで好きな人が追い込まれていくことがどれだけ辛いかも、私たちは知っている。
だからこそ辛かった。
鈴さんが過去に体験した、突然の親友の死も。今している鈴さんの後悔の呪いにかけられた顔も。
「……葬式で見た彼女の顔は化粧で綺麗にはなってるものの、苦しみの感情が彼女の身から溢れ出ていることが私にはわかった。つらかった。だから、もう。こんな後悔はしないようにって。同性の恋愛について知識をつけた。彼女のお墓には高校時代から毎日通っているし、今、真理佳ちゃんや葵ちゃんを目の前にしても、昔のような偏見の目なんて持たないようになった。でもね、やっぱり私には『理解』ができなかったの。どれだけ知識をつけても、その人たちの話を聞いても、私は女性を。彼女を恋愛的に好きになることができなかったし、自覚するとこもなかった。だから、これは私の後悔だよ。私の守れなかった大切な人の命へのね」
「大丈夫だよ。鈴さん。無理に好きにならなくても。きっと、そんなこと親友さんも望んでないの。結ばれたいんじゃなくて、愛を受け入れて欲しかったんだと思う。鈴さんの生活に自分の恋心が入り込んでも、いつもと変わらない関係と生活を心から望んてたんだよ。親友さんは鈴さんに幸せになって欲しかった。ただ、それだけじゃないかな。無理に女性を好きになることは必要はないし、きっと、親友さんの願いでもない。鈴さんは鈴さんとして生きていけばいい。鈴さんが親友さんの思いを重荷に感じる必要は無いの。親友さんは、多分、鈴さんの幸せを1番に願ってるんじゃないかな。昔も"今"も」
鈴さんは真理佳の話を静かに聞いて驚いて少し、涙を流したあとに
ありがとう。
と、少し救われた顔をして言った。
私たちにはどうすることも出来ないけど。
鈴さんの親友の命が帰ってくる訳でもないけど。
でも、親友さんが残した思いが鈴さんにとって、(のろ)いから(まじな)いへと変わった瞬間だったのではないかと思う。