その後は、店員さんが傘を貸してくれたので、1本の傘を2人で差してホテルまで帰った。
そして、2人とも風邪をひくことなく翌朝を迎えた。


「さぁさぁ、葵!今日の目的地の発表だよ!」
待ってました。と言わんばかりに大袈裟に拍手しておく。
今朝は珍しく、真理佳の方が早く起きていたので朝からテンションのギアがMAXだ。
ベットの上に立ち、演説のようにして立つ真理佳が可愛かったので写真を1枚撮ってから話を聞く。
「で、今日はどこに行くの真理佳?」
「よくぞ聞いてくれたね…。昨日、葵が私との結婚の約束を受け入れてくれたでしょ?」
108本のひまわりのことか。
「だからね……行こうと思って///」
予想も立てれずにいると、真理佳から驚きの場所が発表された。
「結婚式場//」
「え???」


今日はバスに揺られて数十分。乗り換えも込みで、着いた先はお城のような結婚式場。
今日は別に結婚式をあげるわけでもなく、話と説明を聞いて結婚式をあげる気分を味わおとの事だった。
「葵は白無垢派?それともドレス派?」
「私はドレス派かな」
「私も私も!じゃあ、タキシードはどっちが着よっか?」
「うーん、どっちもドレスでいいんじゃない?」
「2人ともドレスの結婚式か…いいね!」
「うん、その方が私たちらしいよ」
「だね!」
そんなこと行ってる間に結婚式場に到着した。
かしこまった場かもということで、昨日雨でずぶ濡れになってしまった制服をコインランドリーで乾かして、今日も2人ともセーラー服で結婚式場に向かった。
中に入るのは緊張したけど、真理佳が手を繋いでくれたので勇気をもらいそのまま、堂々と門をくぐった。
お店の中に入ると、数人別のお客さんも来ていて、どの人も幸せそうな顔をした"夫婦"だった。
少しすると、奥の方から男のスタッフさんが出てきてくれた。
「お待たせしました……て、あれ?君たちお母さんとお父さんはどうしたの?」
高校生で、しかも、制服で女同士で入ってきたらこうなるか……なんて思っていると真理佳が
「予約をしていた『胡蝶』です」
真理佳、予約してくれてたんだ。
それで、今朝は私より早く起きてたのね。
男性のスタッフさんは
君たちが?
と言わんばかりの顔をしているので、
真理佳は察して
はい。予約したのは私たち二人です。
と、私を抱き寄せて言った。
「……困るんだよね。こんなイタズラは。ここは友達と来るようなところじゃないの」
しかも、予約まで取って……
と、態度を豹変させ、イラついた様子で私たちを見る。
「友達じゃありません。恋人です」
「は?ますます意味が分からないな。だって君たちはどっちも女じゃないか」
そのスタッフは足をトントンとまくし立てるような音を立て私たちを睨んでいた。
その目に、私たちは見覚えがあった。
私たちを『異端』として見る目。
恐怖で足が震える。
私たちの「死ぬ程」怖いもの。
「女同士の恋人はおかしいですか?」
「おかしいも何も、ねぇ、だって、『普通』に考えたらおかしいだろ」
さぁ、帰った帰った。と、邪険にして追い返そうとする男性スタッフ。
真理佳が青ざめた私を見て、ごめんね。と優しい声をかけ頭を撫でた。
「ちょっと待って!」
真理佳が踵を返して帰ろうとした時、あの男性スタッフの後ろの方から女性の声が聞こえて来たので思わず2人とも足を止めて振り返ってしまった。
「申し訳ございません。二名でご予約の胡蝶様ですね。すぐに案内させていただきます」
やってきたショートカットで背の高い、スタイルのいい女性は男性スタッフとは打って変わって私たちに対して丁寧に頭を下げてくれた。
「ちょっ、先輩?!何してるんですか」
「それを言いたいのは私よ!あなたは何をしたいの!!ここは結婚式場。人生で1番華やかな瞬間を彩るところなの。それのどこにあなたが彼女達を追い返す権利があるの?」
すいません。と平謝りする男性スタッフにその女性は謝る相手が違う!!と言って私たちの方に向き直らせて深々とお辞儀させた。
「それに、この子は私たちに花を送ってくださっている取引先の娘さんよ。粗相なんかして取引が無くなってら責任取れるの?」
「「え?」」
驚いたのは、男性スタッフと私。
それで、真理佳はここの予約が当日なのに取れたのか。
「す、すみませんでした」
と、今度は自主的に謝るスタッフに真理佳は
「人によって態度変えるんだ」
と、ボソッと吐き捨て、男性スタッフの顔が青ざめていくのをいい気味と見ていた。
男性スタッフはその後、先輩の女性スタッフさんに言われ、すごすごと奥に戻っていった。
「葵の心を傷つけたんだからこのくらいしないとね」
と、はにかむ真理佳にいつもの私を取り戻し、女性スタッフさんに案内されて席に着く。
「さっきはごめんなさいね。こんな思いをさせるつもりはなかったの。彼には後できちんと言っておくわ」
丁寧に謝ってくれる姿が、私たちを『普通』の女の子としてみてくれた一香さんと重なった。何となく雰囲気も似てるし。
「真理佳ちゃんには、いつもお母さんにお世話に乗っているわね。また今度感謝していると伝えてくれると嬉しいわ」
「……はい。もちろんです」
また、胸がズキッとした。『また今度』その言葉に。
分かってる。今、この人に私たちの計画を伝える必要もないし、伝えるにしてもリスクが高い。
でも、もう、一香さんとは……


説明も聞き、結婚式場を見学させてくれるとのことで色々と見て回り、再び、あの席に戻ってくると私たちはしばらくあのスタッフさん。鈴さんと談笑に花を咲かしていた。
「葵にはAラインのドレスなんかが似合うんじゃない?」
「いいわね。葵ちゃんは背も高いしきっと似合うわよ」
「そうですか?でも、真理佳はこの……プリンセスライン?が1番似合うんじゃない?」
「この、お姫様みたいなやつね!可愛いよね〜。The ドレスのイメージみたいな感じで」
ドレスのパンフレットを見ながら3人で話している時間はとても楽しかった。
学校にも行かず、普段は真理佳と二人。たまに一香さんも話に入りに来てくれるけど、基本はお店番をしていたり、花の世話もあったりといつも忙しくしていたので私と真理佳と他の人で話す機会が少なかったから。
「そういえば、なんで鈴さんは私たちの入店を拒まなかったんですか?」
だいたいみんなあの男性スタッフみたいな反応をするのは私たちがよく知っている。
だからこそ、その真逆な真摯な対応をしてくれた理由がわからなかった。
真理佳が一香さんの娘であるって理由ではここまで私たちは親しく、心を許して話すことはなかっただろう。
鈴さんはギィッと椅子にもたれかかり、1つ深呼吸のような大きな息を吸って私たちの方を真剣な眼差しで見た。
「これは私の重い昔話になるんだけど……それでも聞きたい?」
私たちは顔を見合せて鈴さんの方に背筋を伸ばして向き直った。
「……なら、話そうか。」