あの後、私たちは帰宅中のサラリーマン達とは逆方向の電車に揺られ、やってきた真理佳がとった隣県のビジネスホテルで目を覚ました。
「おはよ、真理佳」
「ん〜、おはよ〜……」
「ほら、起きて。今日はどこに行くの?そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」
「別にいいよ〜……今日はね〜。…………とりあえず水飲んでくる……。」
「はいはい。行ってらっしゃい」
真理佳がこの調子ならここを出るのは数時間後になりそうかな。相変わらず真理佳は朝に弱いな……そんなとこも可愛いんだけど。なんて考えながら着替えを済ませる。
「本日は午後5時から雨が降る可能性があるため、注意が必要です。ぜひ傘を持ってお出かけください。続いてのニュースです……」
ニュースを見ていたら途中で真理佳が着替えてるのに気づいて
「今日は制服でお願い〜」と奥の洗面台から声が飛んできたので言われた通り真理佳とお揃いの白と青基調のセーラー服に紺色のスカートを着た。久しぶりに着た制服はなんだかコスプレみたいな気がしてちょっと恥ずかしかった。
朝起きて1番に心配したのは警察が私たちの捜索に動き出すことだったが、そんなニュースも連絡もなく。なんでもない朝を迎えた。
一香さんが何とかしてくれたのか。
それとも、お母さん達は本当にもう、私の事なんてどうでもいいのか。
どっちかだろうな。けど、後者だったらいいけど一香さんにこれ以上迷惑かけるのは……。
なんて思っていると、いつの間にか制服に着替えてすっかり目を覚ました様子の真理佳が寄ってきた。
「さぁ、葵。今日行くところの発表だよ!もっとワクワクしてくれてもいいんだよ?」
「充分ワクワクしてるし、真理佳と一緒にいられるだけで楽しいよ」
「も〜、そんなこと言っても飴ちゃんしか出ないぞ///」
「フフッ、ありがと」
私の一番好きないちご味。
こういうところが好きなんだよなぁ。
「さぁ、荷物持ってチェックアウトしに行くよ!次の目的地に出発だ〜!!」
また電車に揺られ数時間。別のホテルにチェックインを済ませ、荷物を置いてカバンだけを持って出る。
「今日行くのはね〜、ここ!遊園地!!」
制服で遊園地デートとかしてみたかったんだよね〜。と真理佳が言うのでそれで久しく着てなかった制服を持ってきて今日着させたのかとパズルのピースが繋がった。
「ここはね〜、あんまり人が居ないけど穴場なんだよ!1回だけお母さんと来たことがあってもう一度行ってみたかったんだよね」
「そっか、じゃあ、今日は真理佳の思い出巡りだね」
「うん、存分に楽しもう」
高校生用のチケットを買って中に入ると、なかなかの規模のアトラクションと広さにびっくりした。
多少人はいるものの、何処ぞのテーマパークみたいな数時間待ち。なんてことは無いだろう程度。
「たしかにここはいい穴場だね……」
「でしょ?」
褒めてくれてもいいんだよ?と言わんばかりの顔をしてたので撫でてあげる。
真理佳は私よりちょっとだけ背が低いからこういうとこは幼げがあっていつもとは別の可愛さがある。
「何から乗る?」
「う〜ん、そうだね〜。ジェットコースターもコーヒカップもバイキングも乗りたいし……」
「全部行こうよ。今日1日使って!」
「うん!」
それからは真理佳が過去に乗ったアトラクションに乗ったり。ソフトクリームを食べてみたり、顔はめパネルで写真を撮ったり。
午前10時頃には来たはずなのに、いつの間にか2時、3時と刻々と時間は過ぎていった。
「いや〜、はしゃいだね」
「うん。このクマのパネルの真理佳とか傑作だよ」
「葵だって、お化け屋敷で私の腕にしがみついてて可愛かったなぁ〜」
「ちょっとッ!」
なんてことを言うんだ。
全人類お化けが怖いことなんて当たり前なのにすいすい進もうとする真理佳の方がよっぽどホラーだったよ!私にとっては!
「じゃあ、そろそろ行きますか。……お花畑エリア!」
「いいね!ここから西側かな?」
私も真理佳も花が好きだから最後の方に行こうってとって置いたのだ。
「ここのひまわり畑がすごい記憶に残ってるんだよね〜。」
私がここを覚えてたのはそれが原因かも。
なんて、言ってウキウキな足で私の前をスキップしていく。
「あそこのひまわり畑には11本どころか99本も108本もあると思うよ!」
「何本でも、真理佳からなら答えは全部"Yes"だよ」
「そっか、嬉しい」
あんまり知られてないけど実は贈るバラの本数によって意味が変わるようにそれがひまわりにもある。
真理佳が言った11本は「最愛」。
99本は「永遠の愛」と「ずっと一緒にいよう」、108本目は「結婚しよう」。
全部愛の言葉や告白、プロポーズの言葉。
だから、私はその全部を「受ける」と言った。
だけど、皮肉だなとも思う。
私たちがこのまま死のうものなら、99本目の意味はすぐに叶ってしまうから。
でも、私たちはまだ知らなかった。
999本目のひまわりが持つ意味を。
そんなことを考えながらも、花畑を見た時、真理佳はなんて言ってくれるだろう。
なんて、心を弾ませながら向かったが期待は、悪い方向へすぐうらぎられることになってしまった。
「……そんな」
ひまわり畑のエリアに到着した私たちを待っていのは、強風でなぎ倒され、枯れてしまったひまわりたちだった。
店員さんが言うには台風のせいなのだと。
ここは私たちがいたところの隣県。
そういえば2週間か1週間前ほどに店員さんの言う通り台風が来ていた。
私たちのところには少々の強い雨と風程度で済んだが、ここはそうではなかったようらしい。大雨・暴風警報が発令される程天気は荒れに荒れ、その影響らしい。
「真理佳……」
真理佳は少し俯き、足元のひまわりをそっと撫でるように視線を寄越した。
「大丈夫、また……来ればいいから……」
「真理佳……」
胸が痛くなった。
真理佳が悲しい顔をした事に。
……であって欲しかった。
『また』
この言葉に酷く反応している自分が心の中にいた。
この時はきっと、真理佳の感情のこもった言葉が刺さったんだと。大好きな人の悲しそうな顔に自分も感化されたんだと。そう思っていた。
「でも、ほら。約束通り、ひまわりが11本でも、99本でも、108本でも、何本でもあるよ」
受けてくれるんでしょ?とすっかり小悪魔顔の真理佳はいつもの調子を取り戻した。
それに答えなくては。と真理佳の方に歩み寄る。
「…… 健やかなる時も 、病める時も、喜びの時も 、悲しみの時も、富める時も 、貧しい時も、これを愛し 敬い 慰め合い 共に助け合い『その命落とした後も』真心を尽くすことを……」
誓います
そこまで言って、真理佳の唇にそっとキスをした。
「……誓いの言葉に唇へのキス……ずいぶんロマンチックだね」
そう言って真理佳は私の首に手を回し、そっと背伸びをして私のおでこにキスをした。
「ロマンチックはどっちよ」
頑張って背伸びをしたままの真理佳にどっちからと言わず、もう一度キスをした。
このキスに意味なんてない。
だけど、世界で一番幸福な時間だった。
「さぁ、葵。雨が降ってきたし、これで最後にしよう」
土砂降りの中傘もカッパも着ずに既に誰もいない園内を走る。
「どこに行くの?」
「ふふん。葵が私との結婚も愛も受け入れてくれるって言ってくれたから、ちょっと白馬に乗って迎えに行かないとな〜って思って」
「あ〜、なるほど」
真理佳が後ろの私を見て親指でクイッと指した方向には雨で早めにライトアップされたメリーゴーランド。
もちろん、乗客は私たち2人。
「お嬢ちゃん達びしょ濡れで大丈夫かい?」
定員のおじいさんが声をかけてくれた。
やっぱり今の私達は周りから見れば中々に奇怪なのだろう。
「これで最後にしますから乗せて貰ってもいいですか?」
真理佳が聞くと、風邪を引くからこれで最後だよ。と動かしてくれるとこになった。
真理佳は白い馬のメリーゴーランドを探すとすっと、飛び乗り私に手を伸ばしてどうぞと後ろに乗せてくれた。私は真理佳の腰に手を回すような形で掴まった。
音楽がなり始め、私たち二人しか乗ってないメリーゴーランドが動き初めた。
雨で濡れた肌からは密着している真理佳の背中の体温が伝わってドキドキしたが、外の雨はメリーゴーランドの黄金色の光を反射し、金の雪のように落ちていき私たちの周りを照らす、幻想的な世界を作り出していた。
外は既に暗く、雨で音が吸収されて静かな状況に今この世界には私達しかいないんじゃないかと錯覚する。本当に私たち二人だけの世界だったならどれだけよかっただろうか。
今、この遊園地にはメリーゴーランドの音楽と、雨の音と、私たちの笑い声だけが響いている。
「おはよ、真理佳」
「ん〜、おはよ〜……」
「ほら、起きて。今日はどこに行くの?そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」
「別にいいよ〜……今日はね〜。…………とりあえず水飲んでくる……。」
「はいはい。行ってらっしゃい」
真理佳がこの調子ならここを出るのは数時間後になりそうかな。相変わらず真理佳は朝に弱いな……そんなとこも可愛いんだけど。なんて考えながら着替えを済ませる。
「本日は午後5時から雨が降る可能性があるため、注意が必要です。ぜひ傘を持ってお出かけください。続いてのニュースです……」
ニュースを見ていたら途中で真理佳が着替えてるのに気づいて
「今日は制服でお願い〜」と奥の洗面台から声が飛んできたので言われた通り真理佳とお揃いの白と青基調のセーラー服に紺色のスカートを着た。久しぶりに着た制服はなんだかコスプレみたいな気がしてちょっと恥ずかしかった。
朝起きて1番に心配したのは警察が私たちの捜索に動き出すことだったが、そんなニュースも連絡もなく。なんでもない朝を迎えた。
一香さんが何とかしてくれたのか。
それとも、お母さん達は本当にもう、私の事なんてどうでもいいのか。
どっちかだろうな。けど、後者だったらいいけど一香さんにこれ以上迷惑かけるのは……。
なんて思っていると、いつの間にか制服に着替えてすっかり目を覚ました様子の真理佳が寄ってきた。
「さぁ、葵。今日行くところの発表だよ!もっとワクワクしてくれてもいいんだよ?」
「充分ワクワクしてるし、真理佳と一緒にいられるだけで楽しいよ」
「も〜、そんなこと言っても飴ちゃんしか出ないぞ///」
「フフッ、ありがと」
私の一番好きないちご味。
こういうところが好きなんだよなぁ。
「さぁ、荷物持ってチェックアウトしに行くよ!次の目的地に出発だ〜!!」
また電車に揺られ数時間。別のホテルにチェックインを済ませ、荷物を置いてカバンだけを持って出る。
「今日行くのはね〜、ここ!遊園地!!」
制服で遊園地デートとかしてみたかったんだよね〜。と真理佳が言うのでそれで久しく着てなかった制服を持ってきて今日着させたのかとパズルのピースが繋がった。
「ここはね〜、あんまり人が居ないけど穴場なんだよ!1回だけお母さんと来たことがあってもう一度行ってみたかったんだよね」
「そっか、じゃあ、今日は真理佳の思い出巡りだね」
「うん、存分に楽しもう」
高校生用のチケットを買って中に入ると、なかなかの規模のアトラクションと広さにびっくりした。
多少人はいるものの、何処ぞのテーマパークみたいな数時間待ち。なんてことは無いだろう程度。
「たしかにここはいい穴場だね……」
「でしょ?」
褒めてくれてもいいんだよ?と言わんばかりの顔をしてたので撫でてあげる。
真理佳は私よりちょっとだけ背が低いからこういうとこは幼げがあっていつもとは別の可愛さがある。
「何から乗る?」
「う〜ん、そうだね〜。ジェットコースターもコーヒカップもバイキングも乗りたいし……」
「全部行こうよ。今日1日使って!」
「うん!」
それからは真理佳が過去に乗ったアトラクションに乗ったり。ソフトクリームを食べてみたり、顔はめパネルで写真を撮ったり。
午前10時頃には来たはずなのに、いつの間にか2時、3時と刻々と時間は過ぎていった。
「いや〜、はしゃいだね」
「うん。このクマのパネルの真理佳とか傑作だよ」
「葵だって、お化け屋敷で私の腕にしがみついてて可愛かったなぁ〜」
「ちょっとッ!」
なんてことを言うんだ。
全人類お化けが怖いことなんて当たり前なのにすいすい進もうとする真理佳の方がよっぽどホラーだったよ!私にとっては!
「じゃあ、そろそろ行きますか。……お花畑エリア!」
「いいね!ここから西側かな?」
私も真理佳も花が好きだから最後の方に行こうってとって置いたのだ。
「ここのひまわり畑がすごい記憶に残ってるんだよね〜。」
私がここを覚えてたのはそれが原因かも。
なんて、言ってウキウキな足で私の前をスキップしていく。
「あそこのひまわり畑には11本どころか99本も108本もあると思うよ!」
「何本でも、真理佳からなら答えは全部"Yes"だよ」
「そっか、嬉しい」
あんまり知られてないけど実は贈るバラの本数によって意味が変わるようにそれがひまわりにもある。
真理佳が言った11本は「最愛」。
99本は「永遠の愛」と「ずっと一緒にいよう」、108本目は「結婚しよう」。
全部愛の言葉や告白、プロポーズの言葉。
だから、私はその全部を「受ける」と言った。
だけど、皮肉だなとも思う。
私たちがこのまま死のうものなら、99本目の意味はすぐに叶ってしまうから。
でも、私たちはまだ知らなかった。
999本目のひまわりが持つ意味を。
そんなことを考えながらも、花畑を見た時、真理佳はなんて言ってくれるだろう。
なんて、心を弾ませながら向かったが期待は、悪い方向へすぐうらぎられることになってしまった。
「……そんな」
ひまわり畑のエリアに到着した私たちを待っていのは、強風でなぎ倒され、枯れてしまったひまわりたちだった。
店員さんが言うには台風のせいなのだと。
ここは私たちがいたところの隣県。
そういえば2週間か1週間前ほどに店員さんの言う通り台風が来ていた。
私たちのところには少々の強い雨と風程度で済んだが、ここはそうではなかったようらしい。大雨・暴風警報が発令される程天気は荒れに荒れ、その影響らしい。
「真理佳……」
真理佳は少し俯き、足元のひまわりをそっと撫でるように視線を寄越した。
「大丈夫、また……来ればいいから……」
「真理佳……」
胸が痛くなった。
真理佳が悲しい顔をした事に。
……であって欲しかった。
『また』
この言葉に酷く反応している自分が心の中にいた。
この時はきっと、真理佳の感情のこもった言葉が刺さったんだと。大好きな人の悲しそうな顔に自分も感化されたんだと。そう思っていた。
「でも、ほら。約束通り、ひまわりが11本でも、99本でも、108本でも、何本でもあるよ」
受けてくれるんでしょ?とすっかり小悪魔顔の真理佳はいつもの調子を取り戻した。
それに答えなくては。と真理佳の方に歩み寄る。
「…… 健やかなる時も 、病める時も、喜びの時も 、悲しみの時も、富める時も 、貧しい時も、これを愛し 敬い 慰め合い 共に助け合い『その命落とした後も』真心を尽くすことを……」
誓います
そこまで言って、真理佳の唇にそっとキスをした。
「……誓いの言葉に唇へのキス……ずいぶんロマンチックだね」
そう言って真理佳は私の首に手を回し、そっと背伸びをして私のおでこにキスをした。
「ロマンチックはどっちよ」
頑張って背伸びをしたままの真理佳にどっちからと言わず、もう一度キスをした。
このキスに意味なんてない。
だけど、世界で一番幸福な時間だった。
「さぁ、葵。雨が降ってきたし、これで最後にしよう」
土砂降りの中傘もカッパも着ずに既に誰もいない園内を走る。
「どこに行くの?」
「ふふん。葵が私との結婚も愛も受け入れてくれるって言ってくれたから、ちょっと白馬に乗って迎えに行かないとな〜って思って」
「あ〜、なるほど」
真理佳が後ろの私を見て親指でクイッと指した方向には雨で早めにライトアップされたメリーゴーランド。
もちろん、乗客は私たち2人。
「お嬢ちゃん達びしょ濡れで大丈夫かい?」
定員のおじいさんが声をかけてくれた。
やっぱり今の私達は周りから見れば中々に奇怪なのだろう。
「これで最後にしますから乗せて貰ってもいいですか?」
真理佳が聞くと、風邪を引くからこれで最後だよ。と動かしてくれるとこになった。
真理佳は白い馬のメリーゴーランドを探すとすっと、飛び乗り私に手を伸ばしてどうぞと後ろに乗せてくれた。私は真理佳の腰に手を回すような形で掴まった。
音楽がなり始め、私たち二人しか乗ってないメリーゴーランドが動き初めた。
雨で濡れた肌からは密着している真理佳の背中の体温が伝わってドキドキしたが、外の雨はメリーゴーランドの黄金色の光を反射し、金の雪のように落ちていき私たちの周りを照らす、幻想的な世界を作り出していた。
外は既に暗く、雨で音が吸収されて静かな状況に今この世界には私達しかいないんじゃないかと錯覚する。本当に私たち二人だけの世界だったならどれだけよかっただろうか。
今、この遊園地にはメリーゴーランドの音楽と、雨の音と、私たちの笑い声だけが響いている。