「入るわよ」
ノックされた後にギィと大きな扉が開く音がする。
「鈴さんに一香さん!いいんですかここにいても?」
「いいのよ。今はスタッフとしてじゃなくてあなた達の友人としてここにいるの」
「真理佳の方は無事に進んでるからね。葵ちゃんの様子を見に来たの」
「そうだったんですね」
後ろを振り返って話してたらメイクさんに
「顔はこっち」と怒られ、鏡の方を見る。
「にしても、葵ちゃんも真理佳ちゃんも綺麗ねぇ。涙が出そうだわ」
「鈴さんまだ早いですよ〜」
メイクさんから終了の合図が来て、一香さんと鈴さんと確認をしていたらあとから真理佳とお母さんもやってきた。
「葵すっごい可愛いよ!」
「真理佳もね。やっぱり真理佳にはお姫様みたいなドレスが一番似合う」
「葵も似合ってる。お揃いだね!」
真理佳の頭を撫でようとしたけど、セットが崩れるかなと思って躊躇っていると真理佳が私の手を掴んで自分の頭に乗せたのでそのままそっと撫でると、真理佳は満足そうな顔で笑った。
「そういえばお父さんは?」
「あの人まだ、何も始まってないって言うのに号泣しだしちゃって今はスタッフさんと一緒にいるわ」
5年前、私たちのことを追い返そうとした男性スタッフ。あの人が今はお父さんの相手をしてくれているらしい。
昔は私たちにあんな態度をとっていたものの、もう一度ここに来た時は第一声であの時のことを謝罪し、鈴さんのような対応をしてきてくれたことに私たちは少し感動したのを覚えてる。
鈴さん曰く、「あの子も元々悪い人じゃないからね。少しお勉強させたらあんな感じになったわよ」
らしい。……鈴さんはいったい何をさせたんだ?
「こうしていると高校生の頃を思い出すね。私たち色んなことしたな〜。」
「今思えば結構思い切ったことしたね」
「本当にね」
真理佳が感慨深く言っているところに相槌を打っていると一香さんのピシャッとした眼光が向くものだからごめんなさいとひたすら謝る。
私たちの『あの旅』が無駄だったなんて思ってはいない。
『あの旅』私たちに広い世界を見せてくれた。
「そろそろ時間なので行きましょうか」
スタッフモードの鈴さんが控え室の扉を開ける。
真理佳の手を握り2人で部屋を出る。
「今日があなた達の人生で1番華やかな瞬間よ。……楽しんできなさい」と鈴さんが横を通り過ぎる時に言ってくれた。
2人でお揃いのドレスを着て扉の前に立つ。
「真理佳。愛してるよ」
「……私も大好き。今が1番幸せな瞬間だよ!」
扉が開き、盛大な拍手で迎えられる。
この世界は、私たちのような"普通"以外の人に厳しい現実が確かにある。
でも、それでも。受け入れてくれる人も考えを改めてくれる人も確かにいた。
それを私たちは知ることが出来た。
真理佳と道を一歩。また一歩と歩いていく。
会場には999本のひまわり。
花言葉は「何度生まれ変わっても貴方を愛す」
私たちの「あの旅」とこれからの人生にぴったりな言葉。
今日は結婚式。
2人ともドレスの結婚式。
戸籍には登録できないけど。
確かに私たちが結ばれた日。