雨に濡れて冷えてはいるがどこも怪我していないように見える。

「なぜ会場を飛び出したんだい?」
「…………」
「もしかして誰かに嫌なことをされた? それとも、もしかしてユーリアのことかい?」

 そう尋ねると、また一つ頷く。その顔はとても切なそうで、消えてしまいそうなほどだった。
 そうか、私に恋人がいるから近づけないと思ってしまったんだね。

「彼女は恋人ではないよ。私に恋人はいない。だからローゼが私の傍にいることに遠慮しなくていいんだよ」

 そうだ、遠慮なんてしなくていい。
 むしろ精いっぱい求めてほしい、傍にいてほしい、傍にいたい。
 こんな兄の邪な恋心を知ったら、ローゼはどう思うだろうか。
 それでも私は……。

「ローゼ」

 私は……。

「大丈夫、私はローゼの傍から決して離れないから。何があっても必ず」

 そう。必ず君を守ってみせるから。
 たとえ、兄としての私へ向けられている好意だとしても、今はそれだけでいい。
 ただ、今は傍にいたい。

 いつか君が誰かを好きになって、その人の傍にいるその時まで。
 どうか、どうか、少しだけそんな君を独り占めしたい──