頭の上を何度も滑る優しくて大きな手は、とてもあたたかくて心地よいです。
 時間というのはこんなにも穏やかなんでしょうか。
 心も身体もあたたかくて、お日様にあたっているようなそんな感じがしました。

「これからは私は君の兄になる。血は繋がっていないけど、君が心を許してくれたら、家族のように思ってほしい。ゆっくりでいいから」
「(こく)」

 私はそんなありがたいこと、いいのだろうかという思いで遠慮がちに一つ頷きました。
 私の返事を聞いてラルス様はにこりと微笑んだ。



◇◆◇



 数日が経過すると、私はすっかり身体がよくなり喉の痛みも引いていました。
 ですが、やはりまだ声は出ません。

「(あーーー)」

 私は毎朝起きるたびに声を出そうとしてみますが、うまく声が出せません。
 なんとも無力さを感じて私はそっと窓の外を眺めてみると、やはり公爵家ともあり立派な庭園が広がっています。
 ああ、なんて綺麗なところなんでしょうか、外に出てじっくり見てみたい。
 そう思いますが、それを伝える手段は今の私にありません。

 むずがゆく、歯がゆく、もどかしく……。