今日は冷えるからとお兄さまはホットミルクを入れてきてくださって、私に手渡します。

「さっきは嫌な思いをしただろう。ごめんね」

 私は静かに首を振って否定します。
 お兄さまが助けてくださったからどんなに心強かったか。

 ホットミルクで身体がだいぶあたたまってきた頃、私は思い出して自分の頭についている髪飾りを触って見せました。

「ん? ああ、母上の蝶の髪飾りだね。気に入ってくれたかい?」
「(ふんふん)」
「よかった。母上は私が小さな頃に亡くなってしまって、その形見は父上から譲ってもらったんだ」

 悲しい物語というより懐かしい思い出を語るようにお兄さまは話します。

「父上は仕事に真面目な人でね、なかなか家でも会うことがなくて。それでも時間を見つけては10分でも5分でも私や母上に会いに来てくれたんだ。だから母上が亡くなった時は父上も大層ふさぎ込んでしまってね」
「……」
「初めてだった。父上の泣く姿を見るのは。本当に母上のことが好きだったんだなって思ったよ」