お兄さまに連れられて会場をあとにした私は、その足で自分の部屋に送り届けてもらいました。

「今日は疲れただろう。クリスタを呼んでくるから少し休むといい。そのまま寝てしまっていいからね」

 お兄さまはそう言って離れていこうとしました。
 どうしましょう。まだお兄さまと一緒にいたい……。
 そう思ったときにはもう私の右手は動いてしまっていて、お兄さまの袖をぎゅっと握って引き留めてしまいました。

「ん? どうかしたかい?」
「…………」

 お兄さまは怒るでも去るでもなく、私の目をじっと見つめて私の思いをくみ取ろうとしてくれています。
 傍にいてほしい、なんてわがままを思ってしまいお兄さまを困らせてしまいました。
 名残惜しいですが、ゆっくりと握った袖を離して笑顔を見せます。

 するとお兄さまは私の頭を優しくなでで、「もう少し一緒にいようか」と言ってくださいました。
 あまりに嬉しくてつい喜んでしまいました。
 その時、胸が大きくドクンッと飛び跳ねるようなそんな感覚がしたのです。



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