友好条約30周年記念パーティーの時に初めて彼女を見た。
 なんて華奢で可愛らしい、いい意味で気取っていない令嬢だろうと思った。
 話をしていた令嬢に聞くと、彼女は声を出せないらしい。
 なぜか私は彼女のことが気になった。

「ヴィルフェルトっ!! よくも~!!」

 彼女を助けるため身体が勝手に動いていた。
 幸い武術の心得があったので、暴漢をなんなく倒せたのだが、王子の立場で前に出るなとあとで叱られるだろうなと思った。

「大丈夫かい、ご令嬢」
「(……こく)」

 やはり声が出せないのか。
 頷きや身振り手振りで返す彼女の健気さに心を打たれた。


 数日後、彼女からお礼の手紙が届いた。


『オリヴィエ・ブランジェ様
 先日は助けていただきまして、ありがとうございました。
 咄嗟のことできちんとお礼が申し上げられず、お手紙にて失礼しました。』
 
 そんな短い手紙でも、なんだか彼女の思いが伝わってきた。
 律儀に手紙を渡す彼女の心遣いに、もうすでに心が奪われていたのかもしれない。