「あの、大丈夫ですか?」
「ん、ハッ。、、えっと、、だれですか?」
 それはそうだ。澄美は慌てて自己紹介した。
「私は西園寺澄美です。うちの庭で倒れているのが見えて、とりあえず私の部屋に運びました。勝手なことして申し訳ございません」
「そんな謝らないでください。俺の方こそ勝手に人の家の庭に入ってすみませんでした。迷子になってしまったところ、手持ちも何もなく、おなかがすいてしまって。そこからの記憶がないので、たぶん、ふらふらしていたら入り込んだんだと思います」

 それは、つらい。せめて、おなか一杯にでもしてあげたい。そこで私は料理をふるまうことにした。

「そうなんですね。あ、アレルギーとかありますか」
「?いえ、とくには」
「そう、じゃあ、少し待っていてください」
「あ、はい」
 
 とりあえず笑顔でうなずき、部屋を出た。10分後、私はお盆をもって出来立ての料理を彼の前に置いた。

「よかったらどうぞ。お口に合うといいのですが、、」
「わざわざありがとうございます。では、お言葉に甘えていただきます」

 そういうと少年は箸を持って、食べ始めた。しばらくしてその少年は、ペろりと平らげてしまった。彼は、「ごちそうさまでした」と呟くと私に話しかけてきた。

「お食事、とてもおいしかったです。ありがとうございました」
「いえ、そういってもらえて、うれしいです。ありがとう、ございます」

 別にこの言葉に深い意味はない。それなのに、涙が溢れて止まらなかった。別に料理を褒められるのは初めてでない。なのに、彼の言った『美味しかった』という言葉がとても嬉しかった。突然泣き始めた澄美に対して彼はとても驚いたようだったけど、静かに私が泣き止むのを待っていてくれた。私が落ち着いてから、少年は話しかけてきた。

「本当に今日はありがとうございました。また後日、お礼しに来てもいいですか」
「もちろん。ところで君、名前は?」
「あ、すみません。言った気でいました。タクトと言います。」
「タクト君ね。わかった。もしよかったらいつでもうちに来てね。いつでも歓迎するわ」
「ありがとうございます」

 そういって彼、タクト君は颯爽と帰っていった。 翌日、学校から帰るとタクト君がいた。まさか次の日に来るなんて。