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結局、彼が昔に言っていた、『心が壊れる人をもう見たくない』。これについては答えてもらえなかった。でも、聞かなくてよかったと今は思う。特に理由はない。強いていうのであれば、彼に対する疑問がなくなれば彼を忘れてしまうような気がしたから。
あの日死ななかった私は今、大学生になった。大学生は忙しい。でも、一人暮らしをして思った。私は別に完璧にならなくてよかった。そう思えるようになったのは確実にタクト君のお陰だ。
あの頃の私が今の私を見たら恐がるだろう。でも、過去は過去。一つに失敗にとらわれず精一杯目の前のことをこなせばいい。
タクト君にまた会えるなら会いたい。そう願ってももちろん達成することはできない。そもそも彼は生きていなかったのだから。でも、私が一生彼の幸せを祈ることは自由だ。
一つ、彼が生きていた頃に残した疑問はひとつだけ解決してしまった。
彼に招かれた家で、人が住んでいないように感じたのは、彼自身が幽霊で、あの家に住んでいるわけでなかったから。
これを思いついたのは実家を出る時、何気なく街を散歩してたら一晩中泣き明かした公園を訪れたから。それまでは全く思え出していなかったのに、唐突に頭を巡り、気づいたら鼻の奥がツンとした。
そのまま彼に昔招かれた家に前を通ると、まだそれは建っていた。懐かしくて足を止めると、駐車場には車が停まっていて、家族の笑い声が響いていた。
それを少し見ていたら、いないはずのタクト君が横にいてくれたような気がした。(ここだけの話、実家に顔を出すときはタクト君が横にいる感覚を求めて家の前をあえて通ったりする)
今の自分がこんなにも楽しく過ごせるなんて思っていなかった。でも、確実に言えることはひとつある。それを実感するだけなのに私は、
気が楽になった気がした。