七月二十一日。
 私達の恋愛小説が完成した、あの日の衝動を抱えて。私達は直ぐ様結婚した。
 離したくない、この人を。
 そう、心の奥底から思えるのだから。
 私は確かに赤い糸を掴まえた。昴君と結婚して寄り添えるのは、世界中の誰よりも幸せだなと感じられるのだ。

 役所に婚姻届を提出して、事実上の夫婦となる私と昴君。
 役所の職員さんが優しく、「おめでとうございます。」と祝福してくれて、私達は顔を見合わせて微笑んだ。
 「これから、結婚指輪も結婚式も準備しないとな。」
 「結婚指輪か…。夢みたいだけど、もう、現実なんだよね。」
 私と昴君は役所からの帰り道で、結婚式の話をする。
 もう、こんなにも関係が進むなんて。
 私達の結婚スピードは、電撃結婚といえる。冬には、まさか私が年内に誰かと結婚するなんて、夢にも思わなかった。
 あの日、書店で何気なくしたお願い事が叶ったのかな?あのエメラルドグリーンの日記帳に、これからは素敵な予定を沢山詰めて行きたいな。
 私はエメラルドグリーンの日記帳を鞄から取り出して昴君に見せびらかす。
 「この日記帳を買った日に、素敵な人と結婚出来ますように。って願ったら、本当に結婚出来たんだよ!」
 「…そういう偶然もあるかもな。奇跡ってのは、求める人に降り注ぐとか、なんとか。」
 感動的だけど適当な事を言ってる昴君だけれども、彼はいつになく、大きく口を開けて笑っていた。
 これからは、ずっと、私は昴君の傍に居るからね。
 昴君を、また闇の中には連れていかないからね。
 「…昴君、辛い時には遠慮せずに、ちゃんと私を頼ってね?案外私は頼りになるんだからね?」
 「…うん。絶対に絶対に。約束する。」
 「夏海を信頼してるよ俺は。」
 昴君は心に刻む。
 「次の休みには、街中で結婚式場のパンフレット貰いに行こうか。」「結婚指輪も下見しよう。」
 「早速ね!善は急げだもんね!」
 「おう!」
 私と昴君は上機嫌でハイタッチして、帰路を楽しく歩いていった。

 次の休みの日。街中で私達は結婚式の下調べをする。
 結婚式場のパンフレットを幾つか貰って、残りの時間で結婚指輪を観ることにした。
 街中には、アクセサリーショップは多い。華やかな店内で上品な店員さんが出迎えてくれる。
 「こちらへどうぞ。」と、案内されて、私達は、清く煌めく指輪が鎮座するガラスケースを端から端まで眺める。
 色とりどりのプラチナやゴールドの指輪に、極彩色のダイヤモンドが付けられている。指輪も種類が豊富だ。
 「あっ!昴君…。私、この指輪にしたい。」
 私は指輪を指差した。
 オレンジゴールドにピンクダイヤのついた指輪を。
 私が選んだ指輪は、暖かみのある光を柔らかに放っている。
 「健気に可愛くて、夏海みたいで、俺もこの指輪ずっと付けてたいな。」
 即決してその場で指輪の代金を決済する。
 店員さんが丁寧に指輪とケースを紙袋にいれてくれたので、私は受け取った。
 昴君は、「こっち。」と、城山の方へと歩いてゆく。私も着いてゆく。
 城下町の公園のベンチで。昴君は私に正式にプロポーズをした。
 「夏海…。俺の妻になってください。」
 「はい、喜んで妻になります。」
 昴君は結婚指輪を私の薬指にはめる。
 私の薬指に、清廉な結婚指輪が煌めいている。
 「昴君の薬指には、私がはめてあげるね。」
 昴君のスラッとした、骨張った薬指に、私は結婚指輪をはめた。
 昴君の薬指にも、私と同じ結婚指輪が煌めいている。
 「ペアリングだね♪えへへ。」
 私は弾ける笑顔で結婚指輪を喜んだ。
 昴君もつられて笑う。
 「あっ、そうだ…式場どうしよっか?」
 「うーんと…。……うん。ここがいいな。」
 今度は昴君が、結婚式場を選んだ。
 パンフレットには、碧い海が式場の前に広がる幻想的な式場が載っていた。
 「俺の好きな場所にある結婚式場だ。夏海と戸々で式を挙げたい。」
 昴君とまた、好きを共有できる。
 私は力強く頷いた。

 私達は結婚式の準備をする。この日々が清らかに洗われる時が来る。

*******
 
 結婚式当日。この日がついに来た。
 フラワーシャワーの中を私達は歩く。
 でも、この時はウエディングドレスじゃなくて、あのデートの日に買った、青いワンピースを私は着て歩いた。
 昴君が買ってくれた、大切なワンピース。
 昴君が愛した星空みたいなワンピース。
 昴君の愛に包まれる幸せを、私は噛み締める。
 
 私は、フラワーブーケを皆へと投げる。

 フラワーブーケは空高く飛んでーーー………。


 フラワーブーケは「あなた」が受け取りました。
 

 「ねぇ、あなた、フラワーブーケ受け取ってくれたね。」
 あなたに、幸せ連鎖が起こらないかな。なんて、願って。


*******