「リュディス……5世?」
意外な名前に少し戸惑いを覚えた。
リュディス5世と言えば、ヴィスタネージュ大宮殿を築き、いくつもの戦争で勝利を収めた"百合の帝国"中興の祖だ。
初代皇帝にして竜退治の勇者・リュディス1世の次に偉大な皇帝とされ、黄金帝と呼ばれている。
「帝国の最盛期を築き上げた黄金帝が『呪い』とは、どういうことです?」
「確かに、かの皇帝の表の事績を考えれば、不釣り合いな言葉かもしれませんね」
ペティア夫人は落ち着き払った口調で言う。
「グレアン伯爵、あなたはヴィスタネージュ大宮殿がなぜ作られたかご存知ですか?」
「なぜ、ですか? それは、黄金帝が狩りで訪れたヴィスタネージュの森を気に入り、その場を皇宮とすることを決めたと……」
帝都に住む者なら誰もが知っている歴史だ。もともとヴィスタネージュには皇族が狩りの時に使用する小さな館が建っていた。それに増改築を繰り返してできたのが、あの壮麗な本殿なのだ。
「それはあくまで表向きの理由。本当の理由は2つ。それは黄金帝が真の皇帝の力を恐れたため、そして錬金術の研究を行うためだったのです」
「真の皇帝?」
「そう。"百合の帝国"を治める資格を有する、正統な王者です」
「待ってください! 夫人、その言い方ではまるで黄金帝が……」
「はい。今リュディス5世とされている人物は、真のリュディス5世から名前と玉座を盗んだ大罪人。簒奪者です」
「なっ……!?」
さすがのアンナも、その言葉には戦慄を禁じ得なかった。
かの黄金帝が簒奪者? 帝国貴族が口にしていい戯れ言ではない。
史上2番目に偉大な皇帝を偽物呼ばわりすると言うことは、ヴィスタネージュの全てを否定することであり、彼の直系である現帝室を侮辱することになる。
不敬者として、貴族の称号を剥奪されてもおかしくない。いや、場合によっては死を賜ることすらありうる。
それを理解できないペティア夫人ではないだろう。彼女は極めて真剣に、その話をしようとしているのだ。
(覚悟とはそういう事か……)
アンナは直前に夫人が言った警告の本質を理解した。
「にわかには、信じられない事です。あまりに帝国が正史と定めた歴史とかけ離れています」
「信じろと言われても難しいでしょう。この事実を記した文献はほとんどすべて闇に葬られ、その事実を知る者はあまりにも少ない。私自身、実家であるノユール子爵家に残された伝承があったからこそ、知り得ました」
「ノユール家……」
爵位こそ高くないが、建国以来皇宮の侍従を務めてきた名家だ。ペティア夫人がその家の出身であり、今現在は実質的にノユール家の女主人となっていることは、アンナも知っていた。
「後にリュディス5世を名乗る簒奪者が何者だったかはわかりません。しかし彼は魔法を使えないにも関わらず、巧みな人心掌握術で多くの貴族を味方につけ、一気に事をなしたと言います」
「魔法を使えない? いやしかし、魔法はもう200年も前には完全に失われたはず……」
黄金帝が即位したのは130年ほど前だから、その頃すでに魔法を使える者は絶滅していたはずだ。
「確かに貴族たちから魔力が失われたのは、そのあたりの時代です。けど各国の王や皇帝たちは違います。竜退治の勇者たちの直径はそれだけ強い魔力を持っていました」
「貴族が魔法を失った後も、皇帝はまだ魔法を使うことができた……?」
「ええ、だからこそ帝国貴族たちは皇帝に絶対的な忠誠を誓うようになったのです。」
「あっ!」
アンナは頭の中に年表と歴史書を思い浮かべ、小さな叫び声を上げた。
絶対王政。
現在、大陸諸国の大半が採用している、君主による貴族と平民の絶対的支配を、学者たちはそう呼んでいる。
大貴族や有力諸侯が群雄割拠し、対立と戦乱が常態化していた中世から打って変わり、ある頃から皇帝や国王を頂点とした国家が運営されるようになった。その時期は、確かに貴族たちから魔法が失われた時代と合致する。
「代々、帝位は皇族の中でも最も強い魔力を持つ者に受け継がれておりました。だからこそ"百合の帝国"は、大陸随一の大国でいられることができた。しかしその帝位が、全く魔力を持たぬ者に奪われてしまったのです!」
「……皇帝は、殺されてしまったのですか?」
「いえ。叛逆に成功したものの、御命を奪うことは出来ませんでした。あまりにも強い魔法の力は、どのような刃も毒も弾いたそうです」
「では、どこかに幽閉されたのですね?」
「ええ。その通りです、グレアン侯爵」
殺せないのであれば、どこかに閉じ込めておくしかない。誰かの手に真のリュディス帝の身柄が渡れば、自分を討つ大義名分を与えてしまうことになる。簒奪者はそれを最も恐れただろう。
「リュディス5世の名を奪った罪人は、帝都に残されたひとつの城塞に目をつけました。市域の拡大で城壁が壊されたのちも帝都市民を畏怖し続けた、暗黒の中世の置き土産に……」
「もしや……」
「ええ。このバティス・スコターディ城です」
そういうことだったのか。この時代遅れの砦が壊されることなく監獄として使われることになった経緯。それは、真の皇帝の幽閉先として使われたことから始まったのだ。
「真のリュディス陛下はご家族と共に、生涯この城で暮らしたそうです。ただしその事実はごく一部のものにしか知らされず、たとえ獄内であっても顔がわからぬよう、鉄の仮面をつけさせられたと言います」
「そして黄金帝自身は、皇宮を帝都の外へ移した……」
アンナは言う。ここで、最初のペティア夫人の問いかけに戻ってくるのだ。
「完全な監視下に置いてもまだ安心できなかったのでしょう。偽帝リュディスは、真の皇帝が使う魔法の力を恐れ、ヴィスタネージュを新たな皇宮としました」
「たしか、皇宮を移したもうひとつの理由は、錬金工房と言いましたね?」
「はい。簒奪に成功したとはいえ、魔法も使えぬ皇帝に貴族たちがいつまで従うかわからない。だから森の中に秘密裏に工房を置き、魔法を復活させるための研究を始めたのです」
「ですがその工房は、魔法を復活させるには至らなかった……」
錬金工房の歴史に関してはアンナもよく知っている。偽の皇帝は望む成果を得られなかったはずだ。
「ですが、その研究の過程でさまざまな副産物を得ました。そして、それで貴族の忠誠を買ったのです」
「そういう事ですか……」
錬金工房はおびただしいほどの技術革新をこの国にもたらした。
夜の帝都を照らすガス灯。緊急時の高速移動手段として期待されている機械馬車。工業分野を一変させた錬金合金。戦場で比類なき破壊力を発揮した大型火砲。貴族たちを病の恐怖から救った新薬の数々と、陰謀による「病死の可能性を高めた毒物の数々……。
工房がこの百年間で生み出したものは数知れない。
「偽帝リュディスとその子孫たちは、錬金術の成果である新技術を貴族たちと共有しました。そして、貴族による錬金術の独占が始まったのです」
魔法に代わる新たな力を手に入れた貴族たちは簒奪者を皇帝と認めた。そして黄金帝こそを史上2番目の名君とする、偽物の歴史が作られるようになった……。
恐らくはそういうことだろう。
「そしめ、彼らの繁栄はこの国を大きく歪ませました……」
ペティアは目を伏せながら言う。
「技術を独占した貴族たちは途方もない富を得ることに成功した一方で、平民たちの暮らしは、百年前と大差がありません。それでも都市部にいる者は、錬金術のインフラを使用できますが、代わりに重い税が課せられる……」
絶望的な貧富の差。その解決は、かつてアルディスが夢見た事であり、エリーナやフィルヴィーユ派が文字通り命がけで向き合った事だった。
「貴族たちは巨万の富で毎夜遊び暮らし、誇りなど捨ててしまった。残ったのは、私服を肥やすことと、他者の足を引っ張る事を恥ともしない、薄っぺらい自尊心のみ」
夫人は唇をきつく噛み締め、肩を震わせていた。
「そういうことでしたか」
彼女の姿を見て、アンナは言った。
「あなたが誰よりも規律やしきたりに厳しく、女官長として宮廷人たちを律し続けたのは、貴族の腐敗に対する抵抗だったのですね?」
「……他の方々から見て鼻持ちならない存在だったことは、自覚しています」
ペティアの口角が、ほんのわずかだが上がった気がした。それが気のせいでなければ、アンナはこの老女が笑うところを初めて見た。
「皇族の放蕩や、女子相続はよからぬゴシップの温床となる。だから、私は女帝陛下やあなたに殊更強く当たったかもしれません」
「あの時、私たちがあなたを憎んだことを否定はしません。ですが、乱れる風紀を少しでも正したいという思いは理解できます」
自分の身の危険も顧みず、この国の影の歴史を語る夫人に、アンナはすでに何の嫌悪感も抱いていなかった。
「我々、ノユール家に課せられた使命なのです。主人なき宮廷を正しく律し続ける。真の皇帝がご帰還されるその時まで」
「帰還?」
「はい。正統なる王者が、再び玉座に座る時を、我が家は待ち続けています」
「お、おい夫人。そこまで話すのか!?」
ベレスが顔色を変えて、ペティアを諌めようとした。
「もちろんです、伯爵。そもそも我々はあのお金の使徒を問われているところです。肝心なところを話さなければ、グレアン侯も納得なさらないでしょう?」
「……」
確かにその通りだが、アンナはあえて何も言わず、ペティアの次の言葉を待った。
「ここまでは過去の話。ここからは今、この帝国で起きている話をいたしましょう」
意外な名前に少し戸惑いを覚えた。
リュディス5世と言えば、ヴィスタネージュ大宮殿を築き、いくつもの戦争で勝利を収めた"百合の帝国"中興の祖だ。
初代皇帝にして竜退治の勇者・リュディス1世の次に偉大な皇帝とされ、黄金帝と呼ばれている。
「帝国の最盛期を築き上げた黄金帝が『呪い』とは、どういうことです?」
「確かに、かの皇帝の表の事績を考えれば、不釣り合いな言葉かもしれませんね」
ペティア夫人は落ち着き払った口調で言う。
「グレアン伯爵、あなたはヴィスタネージュ大宮殿がなぜ作られたかご存知ですか?」
「なぜ、ですか? それは、黄金帝が狩りで訪れたヴィスタネージュの森を気に入り、その場を皇宮とすることを決めたと……」
帝都に住む者なら誰もが知っている歴史だ。もともとヴィスタネージュには皇族が狩りの時に使用する小さな館が建っていた。それに増改築を繰り返してできたのが、あの壮麗な本殿なのだ。
「それはあくまで表向きの理由。本当の理由は2つ。それは黄金帝が真の皇帝の力を恐れたため、そして錬金術の研究を行うためだったのです」
「真の皇帝?」
「そう。"百合の帝国"を治める資格を有する、正統な王者です」
「待ってください! 夫人、その言い方ではまるで黄金帝が……」
「はい。今リュディス5世とされている人物は、真のリュディス5世から名前と玉座を盗んだ大罪人。簒奪者です」
「なっ……!?」
さすがのアンナも、その言葉には戦慄を禁じ得なかった。
かの黄金帝が簒奪者? 帝国貴族が口にしていい戯れ言ではない。
史上2番目に偉大な皇帝を偽物呼ばわりすると言うことは、ヴィスタネージュの全てを否定することであり、彼の直系である現帝室を侮辱することになる。
不敬者として、貴族の称号を剥奪されてもおかしくない。いや、場合によっては死を賜ることすらありうる。
それを理解できないペティア夫人ではないだろう。彼女は極めて真剣に、その話をしようとしているのだ。
(覚悟とはそういう事か……)
アンナは直前に夫人が言った警告の本質を理解した。
「にわかには、信じられない事です。あまりに帝国が正史と定めた歴史とかけ離れています」
「信じろと言われても難しいでしょう。この事実を記した文献はほとんどすべて闇に葬られ、その事実を知る者はあまりにも少ない。私自身、実家であるノユール子爵家に残された伝承があったからこそ、知り得ました」
「ノユール家……」
爵位こそ高くないが、建国以来皇宮の侍従を務めてきた名家だ。ペティア夫人がその家の出身であり、今現在は実質的にノユール家の女主人となっていることは、アンナも知っていた。
「後にリュディス5世を名乗る簒奪者が何者だったかはわかりません。しかし彼は魔法を使えないにも関わらず、巧みな人心掌握術で多くの貴族を味方につけ、一気に事をなしたと言います」
「魔法を使えない? いやしかし、魔法はもう200年も前には完全に失われたはず……」
黄金帝が即位したのは130年ほど前だから、その頃すでに魔法を使える者は絶滅していたはずだ。
「確かに貴族たちから魔力が失われたのは、そのあたりの時代です。けど各国の王や皇帝たちは違います。竜退治の勇者たちの直径はそれだけ強い魔力を持っていました」
「貴族が魔法を失った後も、皇帝はまだ魔法を使うことができた……?」
「ええ、だからこそ帝国貴族たちは皇帝に絶対的な忠誠を誓うようになったのです。」
「あっ!」
アンナは頭の中に年表と歴史書を思い浮かべ、小さな叫び声を上げた。
絶対王政。
現在、大陸諸国の大半が採用している、君主による貴族と平民の絶対的支配を、学者たちはそう呼んでいる。
大貴族や有力諸侯が群雄割拠し、対立と戦乱が常態化していた中世から打って変わり、ある頃から皇帝や国王を頂点とした国家が運営されるようになった。その時期は、確かに貴族たちから魔法が失われた時代と合致する。
「代々、帝位は皇族の中でも最も強い魔力を持つ者に受け継がれておりました。だからこそ"百合の帝国"は、大陸随一の大国でいられることができた。しかしその帝位が、全く魔力を持たぬ者に奪われてしまったのです!」
「……皇帝は、殺されてしまったのですか?」
「いえ。叛逆に成功したものの、御命を奪うことは出来ませんでした。あまりにも強い魔法の力は、どのような刃も毒も弾いたそうです」
「では、どこかに幽閉されたのですね?」
「ええ。その通りです、グレアン侯爵」
殺せないのであれば、どこかに閉じ込めておくしかない。誰かの手に真のリュディス帝の身柄が渡れば、自分を討つ大義名分を与えてしまうことになる。簒奪者はそれを最も恐れただろう。
「リュディス5世の名を奪った罪人は、帝都に残されたひとつの城塞に目をつけました。市域の拡大で城壁が壊されたのちも帝都市民を畏怖し続けた、暗黒の中世の置き土産に……」
「もしや……」
「ええ。このバティス・スコターディ城です」
そういうことだったのか。この時代遅れの砦が壊されることなく監獄として使われることになった経緯。それは、真の皇帝の幽閉先として使われたことから始まったのだ。
「真のリュディス陛下はご家族と共に、生涯この城で暮らしたそうです。ただしその事実はごく一部のものにしか知らされず、たとえ獄内であっても顔がわからぬよう、鉄の仮面をつけさせられたと言います」
「そして黄金帝自身は、皇宮を帝都の外へ移した……」
アンナは言う。ここで、最初のペティア夫人の問いかけに戻ってくるのだ。
「完全な監視下に置いてもまだ安心できなかったのでしょう。偽帝リュディスは、真の皇帝が使う魔法の力を恐れ、ヴィスタネージュを新たな皇宮としました」
「たしか、皇宮を移したもうひとつの理由は、錬金工房と言いましたね?」
「はい。簒奪に成功したとはいえ、魔法も使えぬ皇帝に貴族たちがいつまで従うかわからない。だから森の中に秘密裏に工房を置き、魔法を復活させるための研究を始めたのです」
「ですがその工房は、魔法を復活させるには至らなかった……」
錬金工房の歴史に関してはアンナもよく知っている。偽の皇帝は望む成果を得られなかったはずだ。
「ですが、その研究の過程でさまざまな副産物を得ました。そして、それで貴族の忠誠を買ったのです」
「そういう事ですか……」
錬金工房はおびただしいほどの技術革新をこの国にもたらした。
夜の帝都を照らすガス灯。緊急時の高速移動手段として期待されている機械馬車。工業分野を一変させた錬金合金。戦場で比類なき破壊力を発揮した大型火砲。貴族たちを病の恐怖から救った新薬の数々と、陰謀による「病死の可能性を高めた毒物の数々……。
工房がこの百年間で生み出したものは数知れない。
「偽帝リュディスとその子孫たちは、錬金術の成果である新技術を貴族たちと共有しました。そして、貴族による錬金術の独占が始まったのです」
魔法に代わる新たな力を手に入れた貴族たちは簒奪者を皇帝と認めた。そして黄金帝こそを史上2番目の名君とする、偽物の歴史が作られるようになった……。
恐らくはそういうことだろう。
「そしめ、彼らの繁栄はこの国を大きく歪ませました……」
ペティアは目を伏せながら言う。
「技術を独占した貴族たちは途方もない富を得ることに成功した一方で、平民たちの暮らしは、百年前と大差がありません。それでも都市部にいる者は、錬金術のインフラを使用できますが、代わりに重い税が課せられる……」
絶望的な貧富の差。その解決は、かつてアルディスが夢見た事であり、エリーナやフィルヴィーユ派が文字通り命がけで向き合った事だった。
「貴族たちは巨万の富で毎夜遊び暮らし、誇りなど捨ててしまった。残ったのは、私服を肥やすことと、他者の足を引っ張る事を恥ともしない、薄っぺらい自尊心のみ」
夫人は唇をきつく噛み締め、肩を震わせていた。
「そういうことでしたか」
彼女の姿を見て、アンナは言った。
「あなたが誰よりも規律やしきたりに厳しく、女官長として宮廷人たちを律し続けたのは、貴族の腐敗に対する抵抗だったのですね?」
「……他の方々から見て鼻持ちならない存在だったことは、自覚しています」
ペティアの口角が、ほんのわずかだが上がった気がした。それが気のせいでなければ、アンナはこの老女が笑うところを初めて見た。
「皇族の放蕩や、女子相続はよからぬゴシップの温床となる。だから、私は女帝陛下やあなたに殊更強く当たったかもしれません」
「あの時、私たちがあなたを憎んだことを否定はしません。ですが、乱れる風紀を少しでも正したいという思いは理解できます」
自分の身の危険も顧みず、この国の影の歴史を語る夫人に、アンナはすでに何の嫌悪感も抱いていなかった。
「我々、ノユール家に課せられた使命なのです。主人なき宮廷を正しく律し続ける。真の皇帝がご帰還されるその時まで」
「帰還?」
「はい。正統なる王者が、再び玉座に座る時を、我が家は待ち続けています」
「お、おい夫人。そこまで話すのか!?」
ベレスが顔色を変えて、ペティアを諌めようとした。
「もちろんです、伯爵。そもそも我々はあのお金の使徒を問われているところです。肝心なところを話さなければ、グレアン侯も納得なさらないでしょう?」
「……」
確かにその通りだが、アンナはあえて何も言わず、ペティアの次の言葉を待った。
「ここまでは過去の話。ここからは今、この帝国で起きている話をいたしましょう」