かくしてアンナたちの狙い通りとなった。
 皇妃がグリージュス公爵の一人娘の後見人になったというニュースは、ヴィスタネージュの人々に絶大な衝撃を与えた。

「つまり……グリージュス公爵が皇妃側についたと?」
「まさか、何かの間違いでしょう、父上?」
「しかしこれは高等法院の発表です! ……私も信じられませんが」

 ある伯爵邸では当主と息子たちがそんな会話をし……。

「何と恥知らずな!」
「クロイス公のご恩を忘れ、皇妃派に走るなど……」
「名門のグリージュスも地に落ちましたな」
「だから女子相続などさせるべきではないのですよ!」

 あるクロイス派のサロンではそんな憤りが叫ばれ……。

「それにしてもグリージュス公といえば皇妃様やグレアン伯をいじめてた急先鋒でしょう?」
「ねえ。今さら皇妃派でやっていけるのかしら?」
「それについては大丈夫じゃなくて?」
「どうして?」
「だってあのルコット様の下でやってこれたお方よ。きっと並の神経ではないわ?」
「まぁ! いけませんわよ、そんな言い方は……ふふふっ」

 ある貴婦人たちの茶会では、黒い笑いを呼び起こすネタとして消費された。

 そして、そんな貴族たちも皆、心の中で同じ事を考えている。

「私も身の振り方を考えねば……」

 あのグリージュス公ですら皇妃派になびいたのだ。もはやクロイス派の時代は終わった。新女帝とグレアン侯の寵愛を受けなければ、貴族社会の新秩序からはじかれてしまう!
 そんな焦りを、ヴィスタネージュ近辺に住む大多数の貴族たちが抱いていた。

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