完成と同時に、皇妃の村里はアンナたちの拠点としての機能を発揮し始めた。

 皇妃はこの人造の村落に毎日、数組だけゲストを呼び昼食やお茶を共にすることを新たな日課としていた。

「本日は素敵なおもてなしをありがとうございます。皇妃様」

 本日の客はオーバリー伯爵夫妻だ。夫人は皇妃の茶飲み友達の1人で、夫は財務省に勤めている。
 ちょうど彼らは、メインディッシュの野鴨のローストを食べ終えたところだった。この野鴨は、先ほど伯爵自身が北苑で獲ってきたものである。それを皇妃専属の料理人が調理した。
 皇妃と特別なゲストのみで行われる特別な晩餐会。これこそが、皇妃派の活動の基本形だ。

「喜んでいただけて何よりですオーバリー伯爵。今、コーヒーをお持ちしますので、ぜひともおくつろぎ下さい」

 そう言って皇妃は立ち上がる。

「コーヒーを!? そんな、皇妃様お手ずからですか?」
「ええ。最近アンナに淹れ方を教わりましたの。これがなかなか楽しくて、ゲストの皆様に最後に一杯お出ししているのです」

 皇妃はそう言って微笑んだ。その手をさりげなくアンナがつかみ、視覚を共有する。異能のことを知らない夫妻からしてみれば、身分を超えた親友同士の他愛のないスキンシップのように見えるかもしれない。
 皇妃が危なげのない手つきで、粗挽きしたコーヒー豆の上に熱湯を注ぎ込むと、簡素な木造の家屋に豊かな香りが漂い始めた。

「おまたせしました。どうぞ、伯爵」
「これは……大変恐縮です。いただきます」
 
 高価な酒と贅を凝らした食事を当たり前のように嗜んでいた男たちは、皇妃の素朴すぎる趣向に最初戸惑いはしたものの、すぐにそれを受け入れていった。
 特に、今では皇妃派のお茶会になくてはならない大地のケーキの素朴な味わいは、甘いものが苦手な殿方にも好評だった。
 食後に目の見えぬ皇妃がグレアン侯爵に手伝ってもらいながら、自らコーヒーを淹れる。それを大地のケーキと共にいただくのが、宮廷の人間にとって、新しい栄誉となっていった。

「オーバリー夫人、今夜は私ともう少しおしゃべりしませんか? あなたに教えていただいた小説の話がしたくて」
「まぁ、もうお読みになられてのですか? それは是非とも!」

 オーバリー夫人は、同伴者の夫に小声で伺う。

「……あなた、よろしいかしら?」
「もちろんだとも」
「では伯爵、その間にご相談したいことがあるのですが、パイプでもいかがですか?」

 すかさず、夫にむけてアンナが誘いをかける。これが「政治の時間」の合図だ。

「ほう、この館には喫煙室もあるのですか?」
「もちろんです。南方産の葉巻も用意していますよ」
「すばらしい! ぜひともご案内ください」
 
 こうして食後は、皇妃が婦人の相手をし、アンナが殿方に応対するのもお決まりの流れとなっていた。
 そしてこの喫煙室こそが、アンナの主戦場となるのである。

「戦争が終わり、軍事費に余裕ができています。そろそろ減税の話を進めても良いのでは?」
「山岳部の開墾に、予算を割くことはできないでしょうか?」
「未だに、帝都の小麦相場を操作しようとする輩がいるようです。なんとかせねば」

 毎日訪れるゲストに、そういった相談を持ちかけ、時には彼らの困り事に耳を傾けたりする。
 
 こうして、日に日に皇妃派の政治的な力は強くなっていた。

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