「宮廷家財管理総監……ですか?」

 控えの間に戻ったアンナは、マルムゼに自分の今後の肩書きを伝えた。

「そう。このヴィスタネージュを彩る調度品や装飾、美術品を管理したり、大庭園の工事を監督したりする職務よ」
「なんといいますか、それは……」
「ハズレ役職だと、あなたもそう思う?」

 マルムゼに問いかけると、彼は不服そうに頷いた。

「皇帝は、国務大臣になって欲しかった、なんて言ってたけどね。まあ、こんなところでしょう」

 国務大臣のような要職、クロイス公が許すはずがない。選ばれるとすれば、国家の運営に影響の出ないポジションだとは思っていた。
 もともと宮廷に古くから仕えた老齢の貴族が任命されることの多い職務だ。皇族と接する機会も多いので、アンナのような成り上がり者には過ぎた地位とも言える。

「格式はあるが国家の運営には影響しないポスト。要するに、ラルガ侯爵を帝都防衛総監にしたのと同じやり口よ」

 そのラルガは今回の人事で、"鷲の帝国"の大使に任命され、かの国の帝都に赴任することとなった。和平条約の表向きの立役者で、ゼフィリアス帝との縁も深い彼にふさわしい職務を……ということだが、アンナやリアン大公との連携を断つ意図がある事は明らかだった。

「でもね、そう悪いポストではないわ。むしろ今の私にとっては願ってもない仕事かもしれない。……ある一点を除けばね」
「ある一点?」
「それはね……」

 アンナが説明しようとしたところで、扉をノックする音が聞こえた。

「どなたですか?」
「宮廷女官長の侍従です。家財管理総監どの、オキザリスの間へお越しいただけますでしょうか」

 アンナの顔が曇った。

「その"ある一点"から呼び出しよ。ちょっと行ってくるわ……」

 * * *