「覚悟はしていたけど、酷いものね」

 馬上で、この2年に起きたことを語られ、エリーナはため息をついた。
 
「つまり、フィルヴィーユ派の官僚たちは一人残らず解任。流刑者や処刑者も出て壊滅した、という事ね……」
「後任人事は大貴族の子弟たちが独占し、今や貴族派が帝国の政治を動かしています」

 その結果、都市部では臨時徴税が乱発され、農民たちの年貢も上がる一方だという。

「錬金工房は? あそこの錬金術師たちはどうなったの?」
「工房は閉鎖されました」
「は?」
「残念ですが、錬金術師たちは散り散りに……」

 思いがけない答えだった。

「錬金術は、古の時代の勇者たちが使ったとされる『魔法』の復活を目指す学問よ。だからこそ、貴族たちはそれを独占してきた」

 伝承によれば、この大陸はかつて悪しき竜が支配していた。その竜を打ち倒した勇者や仲間たちの末裔が、現在の各国の皇族や大貴族たちなのだ。

「彼らが支配権を確立するためにも、工房は重要なはず。なのに、なぜ閉鎖なんて……」
「私にもそのあたりはわかりません」
「閉鎖後の施設はどうなったの? 職人街には工房の本部があった。あそこには多くの文献と資料が保管されていたはずだけど」
「それは……ご自分の目でご確認いただくのが良いかと」

 マルムゼは言葉を濁した。

「私の目? どういうこと?」

 もうすぐ帝都の市門だ。その奥に、職人街は広がる。帝都の産業を支える街区であり、エリーナの生まれ育った場所でもあった。

 壮麗な彫刻の施された市門をくぐり抜けると、エリーナは絶句した。

「何……これ?」