エリーナは館の衣装室に案内され、身支度を整えた。
 白いフリルをあしらったオレンジ色のワンピース。袖にはやはりオレンジのリボンが飾られている。
 宮廷で着ていたシルクのドレスには比べるべくもないが、なかなか丁寧な仕立てだ。人目には、お洒落好きな中流階級の令嬢と見えるかもしれない。
 帝都を見て回るにはちょうどいい格好だろう。

「どうぞ後ろに」

 外に出ると、マルムゼはすでに馬にまたがり、準備を整えていた。
 彼の手を掴むと、力強く引き上げられる。エリーナは滑り込むように、鞍に腰掛けた。

「しっかりとお捕まりください」
「ええ」

 エリーナは体重の一部をマルムゼの背中に預ける。こうして殿方の馬に乗せてもらうのはいつぶりだろう?
 寵姫として出仕して間もなく、皇帝自ら乗馬を教えてくれた。そして共に狩りへ、時には国内や戦場の視察にも二人で馬首を並べて赴いた。

 そんな皇帝は、私を殺した。そして私はホムンクルスの肉体を得て第二の生を歩もうとしている。
 エリーナはすでに、この新たな人生を平穏に過ごせるなどとは思っていなかった。