何だこれは?
夢の中で、グレアン伯爵は不思議な体験をしていた。
鮮明に映し出される光景。ここは……そうだ、高等法院の法廷だ。自分に向かって激しく何かをまくし立てている男。
たしかあれは……法院の審問官だ。クロイス公のパーティーで何度か会ったことがある。
グレアンは周囲を見回す。そしてぎょっとした。
あれは、私ではないか!
傍聴席の片隅にグレアン伯本人が座っていた。こちらには一切目もくれず、うつむいて小さく縮こまっている男。顔は見えないが。間違いなく自分自身だ。
ならば今、被告席に立たされている私は一体誰なのだ?
う……。
呆然としていると、景色がぐにゃりと曲がり、全く別の場所に立っている。
窓のない部屋。立派なの調度品が並べられているが、狭くうす暗いくどこか陰気な雰囲気。
入口のドアに鉄格子がはめられているのに気がつく。今度は牢獄か?
誰かいる。長身の若い男。あれは、戦争大臣のウィダス閣下ではないか? しかしなぜ近衛兵の軍服を? 彼は2年前に大臣職についたのではなかったか?
ウィダスはワインの瓶を持っている。赤い液体が、グラスに注がれる。
なんだこれは? ただの夢ではない。夢にしては鮮明すぎる。
まるで誰かの……記憶を見せられているようだ。
不意に視界が回転した。なんだどうしたんだ?
急激なめまい、それに吐き気。直後に血の味が口内に広がる。
あ……あ……。
声を上げようとしたが、声帯が動かない。ウィダスが立ち上がる。冷ややかな視線。
頭痛と悪寒が肉体を支配し、背中からじわじわと何かが這い登ってくる気がした。死の気配。根拠はないけど、そんな気がした。
なんだこれは。一体何なんだ!
法廷、牢獄、そして死。まるで罪人だ。いや、刑罰による死ではない。これは毒。
そうだ。これは娘が……あの子が味わったのと同じ苦しみを、いま私は体感しているのか?
けど違うことにすぐ気がつく。あの子は法廷に立った事も、牢に入ったこともない。ウィダス閣下とお会いした事もない。
では一体誰の……?
そうだ……。
ひとりこの状況に合致する人がいるではないか。
法廷、牢獄、毒殺。これは……これはまるで……。
「うわああああああっ!!」
グレアン伯は絶叫とともに、跳ねるように上半身を起こした。
「旦那様! どうなされました!?」
慌てて、従者が天蓋のカーテンを引き開ける。
「ああーっ! ああーー!」
半ば錯乱状態で、叫び続ける伯爵。
顔にはびっしりと大粒の汗の玉が浮かび上がり、それがボタボタと垂れて、寝間着や布団にシミを作る。
「旦那様? 旦那様!?」
尋常でない主人の様子に、従者は蒼白になりながらも声をかけ続ける。
やがて、騒ぎに気づいた見回りの兵士や侍女たちが、部屋に駆けつける。
しかし誰ひとりとして気づいていなかった。
主人が絶叫を上げたとき、部屋の窓が大きく開け放たれていたことも、伯爵と従者の他にあと二人、この部屋にいたことも……。
夢の中で、グレアン伯爵は不思議な体験をしていた。
鮮明に映し出される光景。ここは……そうだ、高等法院の法廷だ。自分に向かって激しく何かをまくし立てている男。
たしかあれは……法院の審問官だ。クロイス公のパーティーで何度か会ったことがある。
グレアンは周囲を見回す。そしてぎょっとした。
あれは、私ではないか!
傍聴席の片隅にグレアン伯本人が座っていた。こちらには一切目もくれず、うつむいて小さく縮こまっている男。顔は見えないが。間違いなく自分自身だ。
ならば今、被告席に立たされている私は一体誰なのだ?
う……。
呆然としていると、景色がぐにゃりと曲がり、全く別の場所に立っている。
窓のない部屋。立派なの調度品が並べられているが、狭くうす暗いくどこか陰気な雰囲気。
入口のドアに鉄格子がはめられているのに気がつく。今度は牢獄か?
誰かいる。長身の若い男。あれは、戦争大臣のウィダス閣下ではないか? しかしなぜ近衛兵の軍服を? 彼は2年前に大臣職についたのではなかったか?
ウィダスはワインの瓶を持っている。赤い液体が、グラスに注がれる。
なんだこれは? ただの夢ではない。夢にしては鮮明すぎる。
まるで誰かの……記憶を見せられているようだ。
不意に視界が回転した。なんだどうしたんだ?
急激なめまい、それに吐き気。直後に血の味が口内に広がる。
あ……あ……。
声を上げようとしたが、声帯が動かない。ウィダスが立ち上がる。冷ややかな視線。
頭痛と悪寒が肉体を支配し、背中からじわじわと何かが這い登ってくる気がした。死の気配。根拠はないけど、そんな気がした。
なんだこれは。一体何なんだ!
法廷、牢獄、そして死。まるで罪人だ。いや、刑罰による死ではない。これは毒。
そうだ。これは娘が……あの子が味わったのと同じ苦しみを、いま私は体感しているのか?
けど違うことにすぐ気がつく。あの子は法廷に立った事も、牢に入ったこともない。ウィダス閣下とお会いした事もない。
では一体誰の……?
そうだ……。
ひとりこの状況に合致する人がいるではないか。
法廷、牢獄、毒殺。これは……これはまるで……。
「うわああああああっ!!」
グレアン伯は絶叫とともに、跳ねるように上半身を起こした。
「旦那様! どうなされました!?」
慌てて、従者が天蓋のカーテンを引き開ける。
「ああーっ! ああーー!」
半ば錯乱状態で、叫び続ける伯爵。
顔にはびっしりと大粒の汗の玉が浮かび上がり、それがボタボタと垂れて、寝間着や布団にシミを作る。
「旦那様? 旦那様!?」
尋常でない主人の様子に、従者は蒼白になりながらも声をかけ続ける。
やがて、騒ぎに気づいた見回りの兵士や侍女たちが、部屋に駆けつける。
しかし誰ひとりとして気づいていなかった。
主人が絶叫を上げたとき、部屋の窓が大きく開け放たれていたことも、伯爵と従者の他にあと二人、この部屋にいたことも……。