ふたつの宣言は、当然のごとく世の中を震撼させた。片や、帝室を簒奪者とけなし、突如現れた正統なる後継者ダ・フォーリスのもとに新秩序を目指すという、女帝マリアン=ルーヌの宣言。片や、帝国全土の混乱を収める体裁を取りつつ、現政権へ反対するものへの参集を呼びかける、リアン大公の檄文の如き宣言。
 
 これらを受け取った、貴族、軍人、地方都市、そして反乱軍……あらゆる勢力は頭を悩ませた。
 
 常識的に考えれば、女帝側の宣言は荒唐無稽にもほどがある。かの黄金帝がリュディスの血筋になりすました偽物などとどうして信じられよう。むしろ、この外国人の女帝と外国人の元帥こそ、国家の簒奪を目論みているのではないか?
 しかし、伝え聞くところによれば、その元帥はリュディスの短剣に秘められた魔法を復活させ、絶大な力を披露してみせたという。そうでなくても、この短剣を所有し正規軍を自在に動かすことが出来る彼らに付いたほうが、生き残る公算は高い。

 一方で、マルフィア大公リアンはどうかと言うと、あの剣呑なる皇弟殿下である。
 ヴィスタネージュと距離を起き、怪しげな革命勢力を支援していると噂される危険人物。次代の皇帝をの座を狙っているという噂が流れたのも一度や二度ではない。そんな人物に、帝国の未来を託せるのか?
 だが、ある筋の情報では、顧問アンナも、帝室の弟妹たちも皆リアンの下に集っているという。ならば正統性は彼らの方にこそありはしないか。

 いや……ヴィスタネージュ側の主張が正しければ、アンナは女帝暗殺を試みた凶悪犯であり、皇弟とその弟妹たちは忌まわしき簒奪者の子孫ということになる。数で劣る彼らに味方して負ければ、先はないであろう。
 
 どちらに付いたとしても、世の中は大きく変わらざるを得ない。しかし、静観を決め込めんだとしても、内戦が始まれば自分たちだけは安全でいられる、などという保証はない。

 指導者たちは、胃痛と吐き気に見舞われながらも、この二者択一を選ぶしか無かった。