あくる5月23日。帝国南部の主要都市ビューゲルで、マルフィア大公リアンによってもうひとつの宣言が発せられた。
この時点で、まだビューゲルに『真珠の間宣言』の一報は伝わっていない。そのため、ふたつの宣言が1日遅れで発せられたのは、全くの偶然であった。とはいえ、両陣営ともに相手が同タイミングで何らかの発表をすることは想定されており、それぞれの宣言には敵勢力を意識した文言が盛り込まれていた。
「私、マルフィア大公リアンは、"百合の帝国"国民2000万の生命と財産に責任を持つ者として、ヴィスタネージュ政権の不当な権力の乱用を非難する」
特に、リアンの宣言は、明確にダ・フォーリスらを敵とみなすところから始まっていた。
「長年帝国に忠誠を近い、帝室の藩屏として仕えてきた忠臣たちを、不当に貶め、害をなしたること、大変に遺憾である。私は、現政権によって窮地に立たされし全ての者の味方である。帝都並びに宮廷を追われたものを保護する用意が我々にはある」
ダ・フォーリスのクーデターで都を追われた貴族は百数十名にも及ぶ。彼らが私兵を引き連れてリアンに合流すれば、ダ・フォーリス率いる正規軍にもかろうじて対抗できるであろう。
「現在、帝国正規軍の一部が、別の正規軍を攻撃するという悲しむべき自体が発生しているが、私はこの解決を願う。両軍ともに、直ちに戦闘をやめ原状回復に努めることを求める。各将軍には、遺物のまやかしに惑わされることなく、自身の誇りと良心にのっとって行動を選択していただきたい」
加えてリアンと、この宣言文を起草したアンナは、正規軍に対する目配せも忘れていない。
現在、顧問派指示を表明した第8軍団と、彼らを討伐するために派遣された第2、第9軍団が戦闘状態にある。数度の小競り合いの後。にらみ合いが続いている。二人は、彼らへの戦闘停止を求めたのだ。
建前上は、両軍とも非難する形であるが「遺物のまやかし」という言葉を使い、リュディスの短剣に象徴されるダ・フォーリスの軍権を否定している。彼の命に従う第2、第9軍団への批判であることは明らかであった。
「さらに帝国では、先年より武装蜂起が相次ぎ、世は麻のごとく乱れている。この現状も、私は望まない。もし真に世の安寧と公正を願うのであれば、諸勢力の指導者は、我がもとに参集せよ。汝らの義憤に、私は最大限の誠意をもって報いるであろう」
最後に、「夏のない年」の苦境から立ち上がった、各反乱勢力にもリアンとアンナは呼びかけを行っていた。彼らの中にはダ・フォーリスの陰謀により、アンナたちの力を削ぐために立ち上がった者も多かったが、この際、そのようなことは関係ない。少しでも多くの味方を得る必要が、彼らにはあったのだ。
* * *
この時点で、まだビューゲルに『真珠の間宣言』の一報は伝わっていない。そのため、ふたつの宣言が1日遅れで発せられたのは、全くの偶然であった。とはいえ、両陣営ともに相手が同タイミングで何らかの発表をすることは想定されており、それぞれの宣言には敵勢力を意識した文言が盛り込まれていた。
「私、マルフィア大公リアンは、"百合の帝国"国民2000万の生命と財産に責任を持つ者として、ヴィスタネージュ政権の不当な権力の乱用を非難する」
特に、リアンの宣言は、明確にダ・フォーリスらを敵とみなすところから始まっていた。
「長年帝国に忠誠を近い、帝室の藩屏として仕えてきた忠臣たちを、不当に貶め、害をなしたること、大変に遺憾である。私は、現政権によって窮地に立たされし全ての者の味方である。帝都並びに宮廷を追われたものを保護する用意が我々にはある」
ダ・フォーリスのクーデターで都を追われた貴族は百数十名にも及ぶ。彼らが私兵を引き連れてリアンに合流すれば、ダ・フォーリス率いる正規軍にもかろうじて対抗できるであろう。
「現在、帝国正規軍の一部が、別の正規軍を攻撃するという悲しむべき自体が発生しているが、私はこの解決を願う。両軍ともに、直ちに戦闘をやめ原状回復に努めることを求める。各将軍には、遺物のまやかしに惑わされることなく、自身の誇りと良心にのっとって行動を選択していただきたい」
加えてリアンと、この宣言文を起草したアンナは、正規軍に対する目配せも忘れていない。
現在、顧問派指示を表明した第8軍団と、彼らを討伐するために派遣された第2、第9軍団が戦闘状態にある。数度の小競り合いの後。にらみ合いが続いている。二人は、彼らへの戦闘停止を求めたのだ。
建前上は、両軍とも非難する形であるが「遺物のまやかし」という言葉を使い、リュディスの短剣に象徴されるダ・フォーリスの軍権を否定している。彼の命に従う第2、第9軍団への批判であることは明らかであった。
「さらに帝国では、先年より武装蜂起が相次ぎ、世は麻のごとく乱れている。この現状も、私は望まない。もし真に世の安寧と公正を願うのであれば、諸勢力の指導者は、我がもとに参集せよ。汝らの義憤に、私は最大限の誠意をもって報いるであろう」
最後に、「夏のない年」の苦境から立ち上がった、各反乱勢力にもリアンとアンナは呼びかけを行っていた。彼らの中にはダ・フォーリスの陰謀により、アンナたちの力を削ぐために立ち上がった者も多かったが、この際、そのようなことは関係ない。少しでも多くの味方を得る必要が、彼らにはあったのだ。
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