城の広間には、錚々たるメンバーが集められた。
 顧問アンナ。
 皇弟マルフィア大公リアン。同じく皇弟クロンドラン伯、並びにエルティール伯、皇妹ユーリア。
 "鷲の帝国"皇帝ゼフィリアス2世より緊急時の全権を委ねられているゼーゲン。
 錬金工房のバルフナー博士も、帝都を脱出しリアン大公に合流していた。今は、シュルイーズとともに会議卓の末席に座っている。
 その他、軍人や顧問派官僚が数名ずつ。リアンは帝都から連れ出せる人物を、可能なだけ引き連れてきたようだ。
 
 そして、出席者の大部分には秘されているが、前皇帝アルディス3世も、黒髪のホムンクルスに姿を変えてこの場に同席している。
 さしずめ、ダ・フォーリスによる新体制に異を唱える者たちの亡命政権、と言ったところか。居並ぶ面々を見て、アンナはそう思った。

 そんな面々の中で、ヴィスタネージュの政変から生き残ったエイダー男爵が、証言する。
 恐らくは自作自演の女帝暗殺未遂。恐ろしく鮮やかな権力奪取の手口。そして、エイダー自身が味わった2つの殺戮。南苑の球技場と、ズーリア砦の落雷……。

「ズーリア砦で私が生き残ったのは、奇跡というほかありません。多くの部下たちは瓦礫に下に埋もれ、父ラルガ侯爵は遺体すら残っていませんでした」

 想像を絶する報告に、誰も何も言えずにいた。こんな場でなければ、呆れたホラ話だと信じない者もいたかもしれない。

「……どう思う、シュルイーズ博士?」

 沈黙を破ったのは錬金術師バルフナー博士だった。

「リュディスの短剣を触媒として魔力を結集させ、落雷に似た現象を発生させた……といった所でしょうか?」

 尋ねられたシュルイーズが答えると、バルフナーは頷いた。

「私も同感だ」
「そんな……それはまるで……古の魔法ではありませんか……!」

 そう言ったのは、アルティス2世の三男、クロンドラン伯レスクードだ。

「まるで魔法、というより魔法そのものなのです、殿下」

 シュルイーズはそう返した。現代に魔法を使えるものがいる。今のところそれを知っているのは、130年前の簒奪劇とその顛末を聞かされた4人のみだ。

「ここからは、このひと月で私達が見聞きしたものをお話します……」

 * * *