「ここ……は?」

 ゆっくりと起き上がったホムンクルスは、呆然と周囲を見回していた。

「やった……成功だ……」

 弟子の誰かが言った。ああ、そうだ。成功した……何十年と待ち望んでいた光景が目の前にある。ついに我々はホムンクルスへの魂の移動に成功したのだ!

「グリーナ……私が、わかるか……」

 目を覚ました妹に、リュディス=オルスが語りかける。妹といっても、器となった肉体はこの少年よりも年上の外見をしていたため、その光景はいささか奇妙に思えた。

「え、あ……」

 グリーナ・ディ・ウィダスの魂を宿した女性は、兄たる少年の顔を見て戸惑っていた。そこで、タフトは違和感を覚える。

「私だ! お前の兄、オルスだ! それとも、レナルの名のほうが通じるか?」
「オル……ス? レナ……ル?」

 グリーナは兄の名をつぶやくが、その響きに明るいものは感じられない。まさか、と思った。覚醒時に記憶の混濁が発生する可能性は確かにあった。しかし、この様子は根本的に事故となる。

「その……どなた、でしょうか?」

 グリーナは、恐る恐る尋ねる。
 なんということだ。失敗だった。
 魂の移動には成功した。しかし、記憶が伴っていない……。

 * * *