古城へ向かう道中。タフトは、リュディス=オルスを名乗る少年から話を聞いた。
「先程も言った通り、私と妹は真のリュディス5世の血を受け継ぐ者だ」
リュディス=オルスは首にかけていた鎖を外し、タフトに見せた。その鎖には銀色の小さなリング2つ通されていた。
「これは……」
古い記憶をたぐりよせる。ああそうだ、間違いない。ルディとティーラのために"伯爵"が作った結婚指輪だ。
「わが曽祖父、リュディス皇太子が曾祖母との結婚の際に用意した指輪だと聞く」
「たしかにそのとおりです。しかし、どうしてそれがここに」
「曽祖がヴィスタネージュを脱出する際に持たされたのだ」
「なんですって!?」
リュディス=オルスの話によれば、あの日ルディに付き添ってティーラは、幽閉先のバティス・スコータディ城で男児を出産したという。そして彼ら一家を慕う侍女らの助けによって、密かに脱出したのだ。
「それは我が一族にとって一世一代の賭けだった。非死の力をもつ皇位継承者は、自分の意志でその力を放棄した時に死が訪れる。それを隠れ蓑にしたのだ」
その計画を発案したのはティーラだという。彼女は、ルディの死の先年に肺を患って死んだが、その間際に非情な脱出計画を考案した。
まず、男児の死が偽装された。ルディとリュディス5世は、相次ぐ家族の死によって悲嘆に暮れ、生きる希望を失う。少なくとも看守たちの芽にはそう移るよう振る舞った。
そして、ルディは非死の魔法を放棄し、妻と息子の後を追う。偉大なるリュディス5世も息子の選択を受け入れ、自らも同じ運命を選ぶ。
これには、看守たちも騒然としたであろう。永遠に死なずともおかしくない2人が揃って自ら死を選んだのだから……。
しかし、運命の男児は生きていたのだ。埋葬されたのは、密かにすり替えられた故事の遺体であり。ルディの子はバティス・スコータディの地下室に匿われていた。
が、父と祖父の死によって、その引き金となった彼の死は疑いのないものとなっていた。その心理的な隙を付き、彼はバティス・スコータディの冷たい城門を抜け出すことに成功したのだという。
「高祖父、そして曽祖父は、自分たちがバティス・スコータディの中で生きながらえるよりも、正統なる血が外に出ることをこそ望んだのであろう」
「そのようなことが、あの頃に起きていたなんて……」
ルディたちの死の報せは、エウランを絶望させた。そして当時の運動は終焉を迎えることになった。あの時、我々が場内の計画を知り得ていたら、あるいはその次女がエウランやタフトがルディ救出のために動いていたことを知っていたなら、歴史は変わっていた。
いや、今更そんな事を言ってもしかたない。タフトはそう思い返し、首を振った。
「脱出したあなたのお祖父様はその後いかがされたのです……?」
「その侍女が、ウィダス子爵家に縁ある者だったらしい。祖父は当時の子爵に預けられることとなった。そして彼の養子となり、やがて子爵家を継いだのだ」
「なるほど、そうでございましたか」
「だが、祖父に魔法は発現しなかった。父にもだ。祖母が平民だったが故と、誰もが思った。だから彼らは、自分たちの出自を忘れ、地方貴族として生きる道を選んだ」
「……」
あの夜の、クロイス体位の言葉を思い出す。下賤な血が交じることで皇族の血は凡人に成り下がる、そう言っていた。その言葉は真実となったといいうことか。
「しかし、私と妹は違った。始祖リュディスが用いた、超常の力を我ら兄妹は宿していたのだ!」
「なんですって!?」
「私は、"認識変換"と"感覚共有"の力を持つ。そして妹は別の力を。その力こそが、ホムンクルスへの適合ができると確信している理由さ」
「その、力とは」
「"憑依"だ。始祖の魔法の中でも、発現者が少ないとされる、肉体を渡り歩く力だ……!」
「先程も言った通り、私と妹は真のリュディス5世の血を受け継ぐ者だ」
リュディス=オルスは首にかけていた鎖を外し、タフトに見せた。その鎖には銀色の小さなリング2つ通されていた。
「これは……」
古い記憶をたぐりよせる。ああそうだ、間違いない。ルディとティーラのために"伯爵"が作った結婚指輪だ。
「わが曽祖父、リュディス皇太子が曾祖母との結婚の際に用意した指輪だと聞く」
「たしかにそのとおりです。しかし、どうしてそれがここに」
「曽祖がヴィスタネージュを脱出する際に持たされたのだ」
「なんですって!?」
リュディス=オルスの話によれば、あの日ルディに付き添ってティーラは、幽閉先のバティス・スコータディ城で男児を出産したという。そして彼ら一家を慕う侍女らの助けによって、密かに脱出したのだ。
「それは我が一族にとって一世一代の賭けだった。非死の力をもつ皇位継承者は、自分の意志でその力を放棄した時に死が訪れる。それを隠れ蓑にしたのだ」
その計画を発案したのはティーラだという。彼女は、ルディの死の先年に肺を患って死んだが、その間際に非情な脱出計画を考案した。
まず、男児の死が偽装された。ルディとリュディス5世は、相次ぐ家族の死によって悲嘆に暮れ、生きる希望を失う。少なくとも看守たちの芽にはそう移るよう振る舞った。
そして、ルディは非死の魔法を放棄し、妻と息子の後を追う。偉大なるリュディス5世も息子の選択を受け入れ、自らも同じ運命を選ぶ。
これには、看守たちも騒然としたであろう。永遠に死なずともおかしくない2人が揃って自ら死を選んだのだから……。
しかし、運命の男児は生きていたのだ。埋葬されたのは、密かにすり替えられた故事の遺体であり。ルディの子はバティス・スコータディの地下室に匿われていた。
が、父と祖父の死によって、その引き金となった彼の死は疑いのないものとなっていた。その心理的な隙を付き、彼はバティス・スコータディの冷たい城門を抜け出すことに成功したのだという。
「高祖父、そして曽祖父は、自分たちがバティス・スコータディの中で生きながらえるよりも、正統なる血が外に出ることをこそ望んだのであろう」
「そのようなことが、あの頃に起きていたなんて……」
ルディたちの死の報せは、エウランを絶望させた。そして当時の運動は終焉を迎えることになった。あの時、我々が場内の計画を知り得ていたら、あるいはその次女がエウランやタフトがルディ救出のために動いていたことを知っていたなら、歴史は変わっていた。
いや、今更そんな事を言ってもしかたない。タフトはそう思い返し、首を振った。
「脱出したあなたのお祖父様はその後いかがされたのです……?」
「その侍女が、ウィダス子爵家に縁ある者だったらしい。祖父は当時の子爵に預けられることとなった。そして彼の養子となり、やがて子爵家を継いだのだ」
「なるほど、そうでございましたか」
「だが、祖父に魔法は発現しなかった。父にもだ。祖母が平民だったが故と、誰もが思った。だから彼らは、自分たちの出自を忘れ、地方貴族として生きる道を選んだ」
「……」
あの夜の、クロイス体位の言葉を思い出す。下賤な血が交じることで皇族の血は凡人に成り下がる、そう言っていた。その言葉は真実となったといいうことか。
「しかし、私と妹は違った。始祖リュディスが用いた、超常の力を我ら兄妹は宿していたのだ!」
「なんですって!?」
「私は、"認識変換"と"感覚共有"の力を持つ。そして妹は別の力を。その力こそが、ホムンクルスへの適合ができると確信している理由さ」
「その、力とは」
「"憑依"だ。始祖の魔法の中でも、発現者が少ないとされる、肉体を渡り歩く力だ……!」