「あんたが本物のサン・ジェルマン伯爵か?」
背後から声をかけられたのは、商工会の会合所からの帰り道だった。
「本物? ……錬金工房の人間か?」
まずそう思った。工房に出入りしている「サン・ジェルマン伯爵」は孫弟子が名乗っている偽りの名だ。タフトを「本物のサン・ジェルマン伯」などと呼ぶ者となると、その弟子のことをよほどに知っている人物ということになる。
「いや、俺は錬金術師ではない」
振り返ると、そこにはマントを目深に被った男が立っている。いや、少年か? 若い声だった。
「錬金術師でないなら……なぜ私を、サン・ジェルマンなどと呼ぶ」
「警戒させてしまうのも無理はない、か。安心してくれ、敵ではない」
「……あなたは誰だ?」
「レナル・ディ・ウィダス……ウィダス子爵家の者だ」
「ウィダス?」
かろうじて聞いたことある程度の家名だった。少なくとも、我が物顔でヴィスタネージュを牛耳っている大貴族ではない。
「そして外部には秘し続けているもうひとつの名がある」
「何?」
レナルと名乗ったその者はフードを外し、素顔を見せた。
「リュディス=オルス。偉大なる高祖父の名を取ってそう名付けられた」
「リュディス……!?」
あらわになった顔を見て、タフトは愕然とした。思った通り、14〜5歳の少年だ。それもよく知った人物と瓜二つの。
「ルディ……」
その名を、思わずつぶやいてしまったことに気づき、タフトは慌てて口をつぐんだ。
「曽祖父のその名を知るということは……やはりサン・ジェルマン村の生き残りか?」
「曽祖父……ですと?」
「頼む!!」
少年は突如頭を下げた。
「妹を助けて欲しい!」
* * *
背後から声をかけられたのは、商工会の会合所からの帰り道だった。
「本物? ……錬金工房の人間か?」
まずそう思った。工房に出入りしている「サン・ジェルマン伯爵」は孫弟子が名乗っている偽りの名だ。タフトを「本物のサン・ジェルマン伯」などと呼ぶ者となると、その弟子のことをよほどに知っている人物ということになる。
「いや、俺は錬金術師ではない」
振り返ると、そこにはマントを目深に被った男が立っている。いや、少年か? 若い声だった。
「錬金術師でないなら……なぜ私を、サン・ジェルマンなどと呼ぶ」
「警戒させてしまうのも無理はない、か。安心してくれ、敵ではない」
「……あなたは誰だ?」
「レナル・ディ・ウィダス……ウィダス子爵家の者だ」
「ウィダス?」
かろうじて聞いたことある程度の家名だった。少なくとも、我が物顔でヴィスタネージュを牛耳っている大貴族ではない。
「そして外部には秘し続けているもうひとつの名がある」
「何?」
レナルと名乗ったその者はフードを外し、素顔を見せた。
「リュディス=オルス。偉大なる高祖父の名を取ってそう名付けられた」
「リュディス……!?」
あらわになった顔を見て、タフトは愕然とした。思った通り、14〜5歳の少年だ。それもよく知った人物と瓜二つの。
「ルディ……」
その名を、思わずつぶやいてしまったことに気づき、タフトは慌てて口をつぐんだ。
「曽祖父のその名を知るということは……やはりサン・ジェルマン村の生き残りか?」
「曽祖父……ですと?」
「頼む!!」
少年は突如頭を下げた。
「妹を助けて欲しい!」
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