15年前、サン・ジェルマン村の惨劇のあと、タフトは錬金術の研究にのめり込んでいた。皇族に流れる不可思議な血の謎を解明し、今の皇帝が偽物だと証明するために、それは必要なことだった。それに錬金術の研究が進めば、ルディ救出というエウランたちの目的を助けることにも繋がる。

 まずタフトは、"伯爵"が残した手記にあった古城を探した。
 生まれてから一度も村を出ていない彼にとって、この探索の旅は苦難の連続だった。が、それでも心のうちに燃え盛る恨みの炎は、彼の手足を動かし続け、ついにそれを見つけ出した。
 
 サン・オーシュの街の北、山岳地帯の奥にそびえる、高い尖塔を持ったその城には、"伯爵"が予測した通り、魔法に関する古い時代の文献がたくさん残されていた。

『俺なんかじゃない……"伯爵"が来るべきだったんだ、ここには』

 書庫を開いたときに、タフトはそうつぶやいていた。この無数の古書は、正しい知識を持つが手にしてこそ宝となるのだ。"伯爵"のもとでほんの数年、助手の真似事をしていたような奴に、ここに眠る知識を扱えるのか?
 畏れにも似たそんな感情を味わったのだ。

 しかし、現実として今この場にはタフトしかいない。他の錬金術師など当てにすることは出来ない。"伯爵"は彼らを信用していなかったからこそ、世を捨て、自分たちの来たのだから……。
 だからタフトは必死で学んだ。サン・ジェルマン村の廃墟に残されていた"伯爵"の蔵書やノートを全て持ち込み、それらと比較検証しながら、少しずつ数百年前の魔法の知識を取り込んでいった。そして自らの血液を試料に、様々な実験を繰り返し、少しでも"伯爵"に近づこうと、そして"伯爵"を超えようと足掻いたのだ。

 そして15年。気がつけばタフトはひとかどの錬金術師となっていた。
 それも魔法時代の知識を豊富に有する、この国でも5指に入るであろう錬金術師に。
 
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