「……」

 タフトは、5冊のノートを食い入るように読んでいた。
 それは単なる研究ノートではなく、"伯爵"の経験と感情も綴られた手記というべきものだった。

 1冊目の最初に書かれたのは、彼がこの村に来たときのこと。そしてこの最初のページの時点で、確信ともいうべき事が記されていた。


 6月18日
 この村、サン・ジェルマンに流れ着いてから3日。村長に崖の上にある小屋を譲り受け、そこに住むことを許された。
 はるか昔に小さな砦があったというこの場所には、地下室もある。研究をするのには最適だろう。

 外部との接触が殆どない小さな村だ。簒奪者どもの目も届くまい。

 エウランとともに脱出した、皇太子殿下と姫様たちは無事であろうか。
 この村なら彼らを匿うこともできる。まずはエウランの消息をつかまねばなるまい。
 
 あの子らには平穏に暮らしてほしい。
 復讐は私たち廷臣の仕事だ。
 
 そのためにも、私は必ず錬金術を完成させる。
 今、世界から失われようとしている魔法を復活させ、奴らに鉄槌を下すのだ。