「アレです!」

 アンナが指差す先。周囲より一際高い山がそびえていた。岩石質のが少ない山で、特に中腹から上は四方とも岩肌が露出した絶壁となっている。その上に、古城があった。
 その建築様式を見るに、かなり古そうな城だ。恐らく、悪しき竜の時代から帝国草創期あたりに建てられたものだろう。
 
「確かに、天然の要害とも言える地。最低限の兵力で守備できる場所ですな」

 むしろ何百何千という兵をあの岩山の上に駐屯させる方が難しかろう。

「このまま進んでよろしいのですね?」
「はい。あの尖塔の上にサン・ジェルマンはいるはずです!」

 ただでさえ周囲にあの山以上に高いところはないというのに、高い塔が建てられていた。四角錐の屋根を乗せたそれは、遠目には天に向かって突き立てられた槍のようにも見える。
 この城で最も地上から到達しにくい場所だが、空から攻めれば最もたやすく接近できる所となる。

 城の敷地内にいくつもの点が見える。それが人影だとわかるところまで接近すると、それらが慌ただしく動き始めた。

「見つかりましたな」

 いくら魔力による迷彩を施しているとはいえ、接近すれば目視が可能となる。城の人々はこちらを見ながらしきりに何かを叫んでいる様子だ。

「速度を上げて。塔に貼り付けば、彼らは砲撃できません」
「了解!」

 塔には彼らの頭脳たるサン・ジェルマン伯がいる。そこに向かって砲撃すればどうなるか、彼らだってわかっているはずだ。

「あれは……!」

 塔が近づいてくる。槍の穂先のような屋根のすぐ下に窓が見える。
 そこに人影があった。部屋の中の人物が見えているわけではない。窓によじ登っている。その人物の全身が、山岳地帯の冷たい風にさらされているであろう。

 (お父さん……!)

 ホムンクルスの視力は、この距離でもその顔をはっきり識別できる。
 疑いようはない。これまで、どう向き合えばいいかわからなかった疑念が、とうとう覆しようのない事実となった。

 アンナは……いや、金属職人の娘エリーナは、ついにその目でサン・ジェルマン伯の素顔を見た。
 
 紛れもなく、父タフトの顔であった。

 * * *