「あれです!」
「こんな所に……」

 気球が林の中に着陸するのを確認したアンナたちは、馬車を降り、慎重な足取りで進んだ。
 茂みの中の獣道を抜け、ついにその場に辿り着く。

「こんな遠くから砲撃していたなんて……」
「射程距離は通常の砲の10倍近くありますな」

 林のど真ん中に、木が切り払って作られた空間がある。周囲を土塁で固められており、中央には斜めに伸びる鋼鉄の柱が5本見えた。この柱こそが新型砲の砲身だろう。

「全部で5門か。最初の砲撃が20発だった。ということは一度に撃てるのは1門あたり4発……」
「そして、その後は長いメンテナンスを必要とするようですな」

 シュルイーズは、方針の周りを慌ただしく動き回る人影を見つめていた。錬金術師と思しき者たちが、次弾装填の準備を進めているようだ。

「通常の砲に比べると、あまりに扱いづらい代物。それでも、私兵を6度も撃退し、正規軍さえも食い止めてしまった」

 その事実にアンナは恐怖する。もしここに3倍の砲が配備されていたら、第6軍団は壊滅していたかもしれない。そして、すでに5門あるということは、量産が可能ということだ。時間さえかければ、その悪夢が現実となる可能性は十分にあった。

「気球は、あそこですな?」

 シュルイーズが指差す。5本の砲身の奥に、ずっと追い続けていた球皮の上半分が飛び出ているのが見えた。

「おそらく穴を掘って、その中を発着場としているのでしょう」

 空に浮いていると実感しにくいが、人が乗れるサイズの気球は、三階建ての建物を越えるほどの球皮を必要とする。林の中とはいえ、地上に置いておくと外側から視認される恐れがあるという判断だろう。

「ゼーゲン殿の力による異変を、当然向こうも警戒しているはず。じきにこの基地は反乱軍に固められるでしょう」
「その前に制圧せねばな」

 林に周囲には警備隊らしき50人ほどの集団が展開していたが、それはゼーゲンの異能でやり過ごすことができた。しかし、それ以上の軍団に包囲されれば脱出は難しくなる。

「どうしますか」
「知れたこと。もう一度、反転を使う」
「ゲッ!?」

 シュルイーズの顔から血の気が引く。アンナも生唾を飲み込んだ。アレをもう一度味わうのか……。

「それしかあるまい。ここから見る限り、この基地にいるのは技術者がほとんど。修羅場を潜り抜けた経験の無い者なら、私の殺気で簡単に制圧できる。さっきの博士のようにな」
「で、ですが、兵士もいます。彼らには通じないかも……?」
「兵士と言っても即席の農民兵や、ルアベーズ伯を裏切った私兵くらいだろう。その程度の奴に耐えられるとは思えん。もし、耐えた者がいてもごく少数。あとは私の武術でどうとでもなるさ」
「そ、そうですか……」

 シュルイーズはしゅんと俯いてしまった。

「顧問殿にご負担をかけることだけは心苦しいですが、なにとぞお耐えください」
「それは構いませんが……あの異能を使われると私たちは完全に無力化されます。あなたをお支えすることも出来ませんので、お気をつけて」
「かしこまりました」

 * * *