「クロイス事変の勝者は誰か?」

 この時期、貴族たちのサロンから、下町の酒場まで、身分の上下関係なく白熱した話題であろう。

「敗者はクロイス公爵家。これは間違いない」

 この話題に興じる人々で、ここに疑問を持つ者はいない。

 皇宮で前代未聞の騒乱を引き起こしたあげく、当主は娘であるルコット前寵姫によって処断されることとなった。公爵家は、嫡男であるレナルドが継ぐこととなったが、良くも悪くも政治的手腕に優れていた父とは違い凡庸な人物で、貴族の盟主という立場は完全に崩れ去ったと言っていい。

「新当主は、領地の3分の1を帝室に返上することになったそうだ」
「それだけじゃない。公爵家が運営していた事業の多くで、経営権を譲渡するそうです」
「実はホテル・プラスターも競売に出されていましてね。実は今日の相談とは、この件なんです」

 そんな会話が今、帝都やヴィスターネージュ近郊の貴族の邸宅で交わされている。

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