「うわははは!」
ウィダスは雄叫びとも高笑いともつかない声を上げながら、別邸ないのランプをひっくり返してまわっていた。マルムゼはその背中を追いかける。
1階はすでに数ヶ所から火の手が上がっている。さらにウィダスは階段を駆け上がって2階の吹き抜け回廊に向かう。
壁に飾られた絵画やタペストリーにも、すでにカーペットから吹き上げられた火の粉がかかり、めらめらと炎の下を伸ばし始めていた。
「我が祖父のコレクションが……」
親愛帝アルディス1世の蒐集物を見て、マルムゼは何の違和感もなくつぶやいた。そして、そうつぶやいてしまった自分に気づき、慌てて口元を押さえる。
「隙あり!」
そんなマルムゼの姿を、ウィダスは見逃さない。すくさま、彼のサーベルがマルムゼに襲いかかる。
「ちがう!」
マルムゼは剣を振って、その一撃をしのごうとしたが、思わぬ軌道に目算が外れた。
そうだ。さっき右手を貫いたではないか。なのに太刀筋の鋭さは変わらない。しかもこの刃の動きは先ほどと鏡写しだ。……この男、両利きだったのか。
「ぐあっ!」
サーベルがマルムゼの剣の上を滑り、彼の二の腕を切り裂いた。
不覚だった。この局面において、利き腕の負傷は大きな意味を持つ。
「……何も違わないさ」
形勢が大きく自分に向かって傾いたことを確信したウィダスは、マルムゼにそう言葉を投げかけた。
「貴様の正体はアルディス3世。寵姫とともに高邁な理想を掲げながら、腹心であり無二の親友だった者に殺された、哀れな男さ」
「……」
「覚えてるはずだ? お前が今受けた傷の味。5年前のあの日も、俺たちはお前の利き腕を封じることから始めた」
* * *
ウィダスは雄叫びとも高笑いともつかない声を上げながら、別邸ないのランプをひっくり返してまわっていた。マルムゼはその背中を追いかける。
1階はすでに数ヶ所から火の手が上がっている。さらにウィダスは階段を駆け上がって2階の吹き抜け回廊に向かう。
壁に飾られた絵画やタペストリーにも、すでにカーペットから吹き上げられた火の粉がかかり、めらめらと炎の下を伸ばし始めていた。
「我が祖父のコレクションが……」
親愛帝アルディス1世の蒐集物を見て、マルムゼは何の違和感もなくつぶやいた。そして、そうつぶやいてしまった自分に気づき、慌てて口元を押さえる。
「隙あり!」
そんなマルムゼの姿を、ウィダスは見逃さない。すくさま、彼のサーベルがマルムゼに襲いかかる。
「ちがう!」
マルムゼは剣を振って、その一撃をしのごうとしたが、思わぬ軌道に目算が外れた。
そうだ。さっき右手を貫いたではないか。なのに太刀筋の鋭さは変わらない。しかもこの刃の動きは先ほどと鏡写しだ。……この男、両利きだったのか。
「ぐあっ!」
サーベルがマルムゼの剣の上を滑り、彼の二の腕を切り裂いた。
不覚だった。この局面において、利き腕の負傷は大きな意味を持つ。
「……何も違わないさ」
形勢が大きく自分に向かって傾いたことを確信したウィダスは、マルムゼにそう言葉を投げかけた。
「貴様の正体はアルディス3世。寵姫とともに高邁な理想を掲げながら、腹心であり無二の親友だった者に殺された、哀れな男さ」
「……」
「覚えてるはずだ? お前が今受けた傷の味。5年前のあの日も、俺たちはお前の利き腕を封じることから始めた」
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