『陛下。これが呪しき血族にかける、最後の呪いとなります』

 その記憶は、以前甦ったものと比べ、あまりにも漠然としていたものだった。
 視界はぼんやりとした光に満たされ、形あるものは何も見えない。
 身体は重さを感じない。どこかに寝ているような、あるいは宙を漂っているような、そんな感覚である。

『あなたは新しき生の全てを、この女に捧げていただきます』

 ただし、声だけは鮮明に聞こえた。懐かしい、父の声だ。金属職人タフトの声……。

『この女の支えとなり、この女が望むものを全てお与えなさい。それが私の……あなたの主人たる錬金術師サン・ジェルマンからの命令です』

 しかし声は、己を金属職人だとは名乗らなかった。錬金術師サン・ジェルマン。それが声の主の名前。
 失望と納得が同時にやってきた。それは、以前甦った記憶とも合致する。だが、できれば違って欲しかった。

「私の……」

 アンナはつぶやく。

 私の父は、サン・ジェルマン伯爵だ。そして……。

 この記憶の中で、彼が話しかけている相手は……。

 * * *