午後2:25 皇妃の村落を襲ったクロイス公の私兵隊は、駆けつけた征竜騎士団の一隊によって制圧された。

「陛下! ご無事ですか!」
「ダ・フォーリス大尉!」

 村落中央の屋敷に入った仮面の男は、女帝の姿を見つけると駆け寄り、ひしと抱き締める。

「大変……大変申し訳ありません! 遅くなりました」
「ううん、よく……よくぞ来てくれました」
「もう離しません。何があろうと貴方様のお側にいます!」

 ダ・フォーリスが両腕の力を強めると、女帝も彼の背に腕を回して抱きしめ返した。

 君主と一介の軍人の抱擁。それを咎める者は室内にいなかった。窮地に駆けつけたこの殿方こそ、陛下の隣に立つにふさわしい。誰もがそう思ったのである。

「陛下、このような事態を招いてしまい、大変申し訳ございません。そして大尉、救援まことにありがとうございます」

 黒い軍服の男が、女帝の前で跪いた。村落を護衛するために配置された近衛隊の隊長だ。

「屋敷に襲撃をかけたのは、クロイス公の私兵でした。まさかあれほどの兵数が東苑に入っているとは思わず、遅れをとりました……」

 村落を襲った私兵は100名を超える大部隊だった。確かに30名足らずしか常駐していない近衛隊だけでの対応は難しい。百戦錬磨の征竜騎士団が駆けつけなければどうなっていたかわからない。

「それで、こちらの被害は?」
「はい。それが……」

 ダ・フォーリスが尋ねると、隊長は顔を曇らせた。真珠の間の面々も不安げな表情を浮かべる。

「グリージュス公の行方がわからないのです」
「女官長の?」
「襲撃の直前に部屋を出ていってしまわれて……どこにもお姿が見えません」

 エスリー子爵夫人が言う。

「……わかりました。私が探しに参りましょう」

 ダ・フォーリスはそう言うと、征竜騎士団部隊長の証である、片マントを翻した。が、女帝の手が伸び、彼の腕を掴む。

「陛下……」

 マリアン=ルーヌはかすかに首を横に振った。もう話さないと、そう約束したばかりじゃないか。震える指はそう語る。
 ダ・フォーリスは仮面から露出する口元をほころばせると、穏やかな口調で言った。

「大丈夫、すぐに戻ります。グリージュス女官長は大事なお方、このままにはしておけません」

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