「この先は通路が細くなっていますので、お気をつけて下さい」

 階段を降りた先に延々と続く地下通路。何があっても対処できるよう、戦闘能力の高いマルムゼとゼーゲンが、それぞれ先頭と最後尾について進むこととなった。

「これは……シュルイーズくん」
「ええ……」

 2人の錬金術師は何かを悟ったようだ。自分たちの鞄から、何やら不思議な物体を取り出す。

「それは……?」

 バルフナーが取り出したのは風見鶏に時計とグリップがついたような物体だ。以前、農務省の技師に見せてもらった風力計に似ている。鶏の頭が向く方向に風が流れており、手元の計器で、その強さがわかるというものだ。

「私が試作した魔力の測定器です。鳥のくちばしと尾に魔力に反応する鉱石をつけており、これによって魔力の流れと強さを計ります」

 シュルイーズが取り出したものは、さらに不可解な形状をしている。
 ふたつの金属製の輪が鎖で繋ぎ止められている。シュルイーズはその輪を自分の靴に装着した。囚人が付けさせられる足枷のようだと、アンナは思う。

「歩幅測距儀、とでも申しましょうか。私の歩幅を一定にすることで正確な距離を測る道具です。これと一緒に使えば、かなり正確な移動経路を算出できます」

 そう言いながら、彼はさらに鞄から方位磁石を取り出した。

「この通路の距離を測るということですか?」
「はい。ちょっとね、怪しいと思いまして」

 シュルイーズが言うと、バルフナーもうなずく。
 詳しい話を尋ねようかと思ったが、おそらく二人も確信しているわけではないだろう。だから不可思議な計測器をふたつ取り出した。

「わかりました。道中の調査はお任せします。詳しいお話はあとでお聞かせください」

 そう言うとシュルイーズは歓喜の口笛を吹いた。

「さすがです!こう言う時に余計な口出しをしない方は信頼できる。ろくに理解もできぬくせに、やれアレはなんだ、やれソレはやめろなどと小うるさい役人のなんと多いことか」

 突如早口気味にまくしたてるシュルイーズ。そういう役人とのやりとりも多いであろう宮廷錬金術師のバルフナーが咳払いをし、その後ろでゼーゲンも苦々しげな笑みを浮かべていた。

「おっと、失礼しました。顧問殿、ご案内お願いいたします」
「ええ、そうですね。参りましょう」

 アンナは彼がなぜ宮仕えをせず、在野で錬金術の研究をしているのかが、わかった気がした。