一行を乗せた馬車は帝都職人街にたどり着いた。

「グレアン候万歳!」
「顧問アンナ万歳!!」

 馬車を降りると、アンナたちは住民たちから熱烈な歓待を受けた。広くはない街路に一斉に住民が飛び出したっため、まるで新年祭や竜討伐の記念日かと思うほどの人の波が押し寄せてくる。中には、いつ用意したのか紙吹雪を飛ばすお調子者まで現れる始末だ。

「見ての通り、職人街はかつての活気を取り戻しました! これもひとえに、顧問閣下のおかげです」
「いいえケント殿。すべては職人の皆様の努力のたまものですよ」

 新生職人街のリーダーであり、今や帝都の他の市域にも名が知られるようになったケントに、アンナは労いの言葉をかけた。確かに、皇妃の村里の建設は、職人街再建の契機となった。
 その報酬となった宝石類は、各工房の立て直しや資材の仕入れに十分すぎるほどだった。さらに村里を真似た簡素な別荘を求める貴族も続出し、そういった大口の契約がダンの大工組合に舞い込むようになりもした。同時に、調度品や庭の彫刻類も職人街の工房に頼む貴族も少なくなかった。
 しかしそれらの要望に応え、これほど急速に復興を成し遂げることができたのは、職人一人一人の努力の成果だ。アンナはあくまできっかけを作ったに過ぎない。

「ずいぶんと、民に慕われていますね」

 街を上げての歓待ぶりを見て、ゼーゲンは言った。

「その分、貴族たちには疎まれていますがね」

 アンナは苦笑交じりに言う。女帝の腹心中の腹心として、事実上貴族社会の頂点に立った。でも貴族たちに完全に受け入れられたわけでもない。皇妃の村里を真似て、ここの職人に頼んで別荘を建てた貴族だって、あくまで流行を追っているだけでアンナや女帝の考えに心から感服したわけでもなかろう。

「民と貴族を天秤にかけるなら、民の側に重しをのせよ」
「貴国の先帝、マリアン=シュトリア陛下の言葉ですね?」
「はい」

 この時代の為政者なら誰もが知っている言葉だ。かつてエリーナが愛したアルディス3世も、かの女帝を敬愛し、この言葉のようにありたいと常々話していた。
 しかし、これはあくまで理想論であり、実践することは難しい。君主にとっては貴族たちの持つ力や利権は無視できるものではなく、アルディスとエリーナはついにこれを打破することは出来なかった。発言の大元である女帝マリアン=シュトリアでさえ、さまざまな理由から民衆より貴族階級を優先せざるを得なかったことは一度や二度ではない。
 それでもこの言葉は、王たるものの規範とされている。民を顧みない王はいずれ、民によって断頭台に送られるのである。

「あなたは、この言葉を体現しておられる。そして恐らくは、我が先帝の娘たるマリアン=ルーヌ陛下にも」
「嬉しいお言葉です、ゼーゲン殿。その言葉をあなたが後悔されぬよう、我ら君臣ともに努力いたします」

 アンナはゼーゲンに言った。

「さて、工房の跡地にご案内しましょう。その地下に、我々が求めるものが眠っております」

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