「フィルヴィーユ公爵夫人エリーナ、あなたは陛下の寵姫という立場を利用し国政を私物化した」

 審問官の言葉に続き、傍聴席の貴族たちから野次が飛ぶ。

「帝国を権威を貶める悪女め」
「陛下を誑かす下賎な女狐!」
「その女を断頭台に送れ!」

 職人の娘として生まれたエリーナを下品で粗野な女と嘲笑していた人々。でも感情のおもむくまま吠えたてる彼らの方が、エリーナにはよほど下品に見えた。

「何を根拠にそのようなことを?」

 ふざけんじゃないわよ! と啖呵を切ってやりたいが、彼らと同じレベルに落ちる事はない。私はあくまで冷静でいよう。
 
「宮廷に相応しくない平民や下級貴族を取り巻きにして、宮廷を掻き乱したではないか!」
「能力のある者を官僚として登用した。それだけです」

 先祖の威光だけが取り柄のアンタたちとは違う。心の中で付け加える。

「軍事物資の横領疑惑も出ている」
「怪文書が出回っていることは承知していますが、事実無根です」

 愛人の軍将校を使い、私服をこやす悪徳寵姫。そんな内容の文書が宮廷や王都にばら撒かれている。皇帝の寵姫である私が愛人? 馬鹿馬鹿しい!
 
「我々貴族の誇りとも言える錬金術を、独占したことは?」
「あら、独占していたのはあなた方でしょう?」
「はあ? 何を言うか?」
「工房の人事に口を出すばかりか、叡智を平民に流した冒涜者め!」

 錬金工房の開放は、エリーナたちの改革の中でもメインの柱だ。
 機械馬車や自動街灯、大型水道ポンプ、様々な薬品類。錬金工房の結晶たちは確かに帝国の発展に貢献してきた。しかしその利権は貴族たちによって独占されている。
 平民にも錬金術が使えるようになれば、世の中はもっと良くなる。それは、錬金工房からの依頼でさまざまな器具を作っていた父の口癖でもあった。

「錬金術は貴族が貴族たる証。平民の玩具ではない!」
「おかげで我らの事業は大打撃だ」
「平民は、我らからの恩恵をただ享受してれば良い!」

 貴族たちの悪意は加速する。
 
「そもそも寵姫が政治に口出しとは度し難い」
「その女を追放せよ」
「宮廷に正義を取り戻せ!」

 貴族たちの悪意のシャワーは、エリーナに容赦なく降り注いだ。

 * * *