「むしろ、なに?」
「……ごめん、今は秘密」
「煮え切らねえな」
「ごめんねー、昨日の巽の言葉でわかったと思うけど、うちもちょっとややこしい感じの母子家庭でさ。さゆの家と似た感じだったんだ。だから俺が勝手に、さゆには親近感持ってて」
「今のさゆの彼氏は俺だけど?」
「うん、そこはわかってる。さゆがあんな幸せそうにしてるの、きっと晃くんのおかげなんだろうなって」
そう言って、自分の席で琴と相馬と話しているさゆの方を見る青山。
……その目が、やたら穏やかで優しく見えた。……愛しいものでも見るような、慈しみの目だった。
「やらんぞ」
反対に、機嫌の悪い俺の声は冷えている。青山は唇の端で小さく笑った。
「晃くんからさゆを奪おうなんて考えてないよ。ただ、『俺が持ってるさゆ』をあげるには、晃くんはまだまだってこと」
……青山が持っているさゆ?
「……小学生の頃のさゆ?」
ってことか……?
「それもあるけど。巽も知らない『俺のさゆ』がいるんだよねー」
「……腹立つ」
「はっきり言うねー。俺、結構晃くんのこと好きだわ」
「……男に好かれる趣味ないんだけど」
「俺もそんな趣味ないけど。言うならそうだな――晃くんっていい人だね」
「……それはどう返せばいいの」
「あはは。返さなくてもいいよ。笑い飛ばしてくれれば」
「………」
なんつーか、こいつは摑みづらい。でも、嫌いなタイプじゃない。
「旭」
名前で呼ぶと、ばっとこっちを振り向いた。驚きの顔で。
「なに。名前で呼べって言ったのそっちだろ」
「いや、そうだけど――晃くんから呼ばれるとは思ってなかった」
「青山のがよかった?」
「旭がいいです」