……そんなモヤモヤを抱えたままの朝のホームルームが始まってすぐ、俺は不機嫌になった。

「青山旭(あおやま あさひ)です。よろしくお願いします」

テンプレートな自己紹介をした転校生。ガタッと、少し離れた席から大きな音がした。

「旭⁉」

え、と顔をあげれば、声の主は目を輝かせたさゆだった。

……誰?

「あ、おーい、さゆー。巽もいるー」

やたらニコニコしている転校生に名前を呼ばれたさゆと巽。

……は?

「へー。咲雪と藤沢の同級生」

ホームルームが終わってすぐ、さゆと琴、相馬と巽が俺の近くに寄って来た。

転校生が俺の隣の席になったから。

さゆの同級生って……。

巽が大きく肯く。

「そ。小学校が一緒。途中で旭が転校したんだけど、こいつ咲雪ばりに頭よくてさ。咲雪と旭でいっつもどっちが点数いいかーとか、早く課題終わらせたーとか競ってたのな」

……もしかしなくてもこいつか。前にさゆが言っていたヤツって。

……野郎だと思わなかった俺の浅はかさが呪われる。

「あー、懐かしいねー。さゆ、また勝負する?」

「する! ちゃんと旭も負かしたい!」

………。

「なーんか、やたら仲いいね? あの二人」

相馬が、親し気に話す二人を見てつぶやいた。

……俺もそう思うわ。

「仲いーよ。咲雪が女子に距離を置く原因になった奴だけど、それから助けたのも旭だし。そういや小学校時代、咲雪のこと『さゆ』って呼んでたの、旭だけかも。……な? 晃くん?」

……俺を見てにやにやするな。

……なんかついでに琴と相馬までこっち見て来るし。

さゆと青山は仲好さげに話しているし。

あ、と巽が声をあげた。

「なー旭。青山って苗字ってことは……」

巽がそう言うと、青山が振り返った。

「うん。母親が結婚したの」

「あ、やっぱ。おめでとう?」

「ありがとー。あとさ、俺まだ『青山』って苗字に慣れてなくて、出来たらみんなにも『旭』って呼んでほしいんだけど」