「ただいまー」
……帰って来た。
わざと廊下や玄関の灯りを消して、リビングだけ明るい家の中を、まず晃くんは不審に思うだろう。
案の定、晃くはキョロキョロしながらリビングのドアを開けた。
「さゆ? 帰ってるのか――?」
「晃くん、座って」
リビングに入って来た晃くんに、厳しい視線を投げる。
「は?」
「いいから、座ってもらおうか」
「? うん」
ダイニングテーブルの向かいの席を示す。
お母さんたちも一緒のとき晃くんは私の隣に座るけど、二人の時は向かい合って座るのが習慣になっていた。
「なんで、あんなことになったのかな?」
「あんなことって?」
「なんで私と晃くんが付き合ってる、なんてことになったのかな?」
「さゆが否定しなかったから?」
「晃くんがヘンな言い回しするからじゃん?」
「……さゆは俺と付き合ってるって思われるのやなの?」
「事実じゃないことを思われても困るでしょうが。晃くんだって誤解されるのいやでしょ?」
「………」
「何故否定せぬ」
「………」
「……晃くん言ってたじゃん。私が、なんで告白されても全部振っちゃうの? って訊いたとき」
学校で一番可愛いと評判の子や、他校でまで噂になる美人さんに告白されても振っていた晃くん。
好きな子でもいるからなのかな? って思って訊いたら、『勉強とか会社の手伝いとかやることあるし、付き合うとかそういうの面倒だから』って返事があった。
だから、付き合っているなんて誤解されるだけでも面倒なんじゃ……。
「俺、さゆのことは大事な子って言ったけど付き合ってるとは言ってないよ?」
「それがあの質問の答えとしては誤解しか生まんのじゃ」