「………」

俺が返したその一言に、巽は口をつぐんだ。

「さゆと一緒にいる今、すげー幸せ。もう俺の一生分の幸せ使い切ってるんじゃないかってくらい。……母さんと小雪さんには感謝してる。短い間でも、さゆと一緒に暮らしてなくちゃきっとこんな思いしてない。……俺はもう、十分――痛っ」

いきなり巽に頭をはたかれた。

「巽?」

叩かれた頭に手をやって見上げると、巽は不服そうな顔で俺を見下ろしていた。

あ? なんだ、この巽の態度は……今まで見たことがない……。

「ばーか」

「え、なに」

「ばーか」

「巽?」

何故か「ばか」を連呼した巽は、ふいっと視線を逸らしてそのまま教室を出て行ってしまった。

……なんだったんだ?

「あ。あいつのこと咲雪に言うの忘れてた」

不審がる俺の視線を背中に受けながら、巽は何かをつぶやいたようだった。