それだけは、俺の絶対禁忌。

俺の中の一番綺麗な場所は、俺が永遠に触れることの出来ない場所。

そこにさゆがいてくれる、それだけで俺は十分過ぎるほどだ。

……十分過ぎるほど、幸せだ。

「……大変だね、お前は」

「うん」

俺のことを――うちにあったこととさゆの家にあったこと、その総てを知っている巽はそっと瞼をおろした。

絶対に、傷つけらんない。だから、触れない。どす黒い俺の中の、唯一綺麗な場所。そこに、さゆがいるから。

そこで巽は、「うーん」とうなった。

「でもさー、今の状態だと晃が咲雪の彼氏ってことになってるから、咲雪はお前に縛られちゃうワケだけど?」

……まあ、そうなるよな。

俺とさゆの仲を疑って来たやつに否定しなかったのは俺だ。

「……ちゃんと譲るよ。さゆのことだけ見てくれる奴が現れたら、俺が今いる場所、全部」

さゆを一番大事にするのも、さゆに一番大事にされるのも、さゆだけを愛していいのも。

……俺以外の奴に、ちゃんと譲る。

自意識過剰かもしれないけど、今、さゆに一番近いのは俺だと思っているから。

巽は別格だから。

巽が声をひそめてきた。

「……晃、譲れるの? お前だって本気で咲雪のこと――」

「本気だから、譲るの。……絶対、さゆには幸せになってほしいから。……だから、俺じゃ駄目だから」

俺では、さゆを幸せにする未来を描けない。

……………あの、悪魔のような父親の血を引いている、俺では……。

巽は、まだ険しい顔をしている。

言いたいことが山ほどあるんだろうな。

だが、気のいい巽は割と自分の気持ちをしまいがち。

こちらが深く突っ込まないと、なかなか本心を明かさないところがある。

今まで巽と何回かぶつかってきたけど、全部巽が自分より俺やさゆを優先して生じたゴタゴタが原因だ。

巽は、自分の気持ちを一番にするのが苦手だ。

それは巽の育って来た環境の影響かと俺は思っている。

「晃、言っとくけど、お前も咲雪も、俺にとっては大事な友達だ。咲雪だけ幸せになっても俺は不満。晃もちゃんと幸せになってくれなくちゃ――」

その巽が、珍しく『自分の気持ち』を俺に押し付けて来た。

けど、ごめん。俺の答えは決まっている。

「幸せだよ」